春の海で、わたしたちは(エンセレ、まもうさ)
瞳を開ける。そこには春の真昼の海の波打ち際で、あの頃のように無邪気に駆け回る彼女がいた。日差しが暖かくて心地良い。
「まもちゃーん!まもちゃんもおいでよー!!」
大きく手を振って白いワンピースに淡い桜色のニットのカーディガンを羽織ったうさが頬も薄紅色に染めて俺を呼ぶ。
ああ―――幸せだ。心の底から、幸せだ。
もう心の中に暗い闇は押し寄せては来ない。
あの水平線よりも限りなく、幸福な時間が続いていく。
彼女に返事をして俺も素足になると駆け寄って抱き上げる。宙に浮いて驚いて小さく悲鳴を上げる彼女と一緒にクルクル回転すると、今度は笑い声が溢れる。
降ろしてそのまま力いっぱい抱き締めた。
「ま、まもちゃん、人がいっぱい見てるよ…?」
少し恥ずかしそうに聞いてくる彼女の顔を、腕の力を緩めて頬に手を置き見つめる。
「いいんだ。今は、こうしていたい。」
誰かにバカだと笑われるかもしれない。迷惑そうな顔をされるかもしれない。でも。
まっさらな空の下、俺の恋人はこの子なんだってことを、皆に見せたい。自慢したいんだ。
「うさ―――愛してる。」
「まもちゃん…!うん!私も、だいすきっ!」
そうして俺達は微笑み合った。
砂浜を歩いていると、何かを見つけたうさは、得意そうに俺にかざしてくる。
「桜貝…綺麗だな。」
「ね!ピンクで小さくて可愛い♪」
その言葉に一人の少女の顔が浮かぶ。
するとうさはまるで俺の心を読んだかのように口を開いた。
「これ、ちびうさにおみやげにしよっかな。」
以心伝心。やっぱりちびうさの親だな。俺達は。
俺が声を漏らして笑っていると、「まもちゃんももっと探して!」とうきうきしながら言う彼女。
その可愛い表情に引き寄せられるかのように、唇を素早く奪った。
「へ…?も、もうまもちゃん!!」
「ほら探すぞー、あ、一つ目。」
真っ赤な彼女にさっそく見つけた桜貝をかざす。
「まもちゃんてば!ずるい!!」
寄せては返す波の音が、いつまでも俺達を優しく包んでいた。