甘い甘いまもうさ

その髪に触れたい
※初期まもうさ





学校からの帰り道


ふとした休日の曲がり角


どういうわけか偶然何度も出くわしてしまう金色の髪のお団子頭。



大抵向こうがやたらとでっかい声を出しているから見つけるのは俺のほう。

ちょっとからかうと面白いくらいに反応して言い返してくる元気だけが取柄のような中学生。



の、はずだったのだが。




今日はまだ一度もお団子と会っていない。

毎日毎日約束もしていないのに会えるほうが不思議なのだから、これは至って普通なはずで、動じる原因はどこにもない。

そうだそのはずだ。


なのに。


殆んど意識していないところで揺れるお団子頭を探してしまっているのはなぜなんだ。

え?

探してる?

俺が?

月野うさぎを?



おいおいやめろって。これじゃまるであいつのことを―――――



軽く頭を振って何気なく視線を上げた時だった。



「あ。」



見付けてしまった。


何なんだ俺。お団子センサーでも付いているのか?本気で疑いたくなってくる。


彼女は歩道橋の真ん中に立ち、ぼんやりと空とも地上とも言えない場所を見つめているようだった。


「え…?」


彼女は目元を拭ったあと、そのまま柵に乗せていた両腕の上に顔を埋める。その肩は震えているようにも見えた。


それを見た瞬間、俺は何かを思うよりも先に体が動いていて、気付けば歩道橋の階段を勢いよく駆け上がっていた。



「おい!」

階段を昇りきって呼び掛ければ、お団子は驚き顔を上げた。

「あ…あんた…」

その両目からはポタポタと涙が零れ落ちていて、俺が何も言えずにそれを見ているのを気付いた彼女は慌ててそれを拭う。

そしてふいっと顔を背けた。

「何よもう…いきなり大声で…驚くじゃない。」


いつも誰よりも大声な奴が何言ってるんだ、とか。

また赤点でも取って泣いてるのか、とか。


そんないつもの軽口を叩けるような雰囲気ではないのは明らかだ。

意地を張った言葉もまるで覇気が無くて、放っておけばまた涙が零れそうに瞳が揺れている。



だけど。



俺は今こいつに何を言える?



ただの知り合い程度の男に深入りされたらお団子だって嫌だろう。

見なかったことにして黙って去るのが俺の立場でできる、最大限の優しさなのではないか。

勝手に足が動いてここまで来てしまったけれど、きっとそれが一番いいはずだ。

俺にとっても、お団子にとっても。





「私さあ…」

迷い、動けずにいた足が踵を返そうとしたとき、お団子がぽつりと言葉を投げた。

「何でかな、何で泣いちゃったのか自分でも分からないんだぁ…」

「え?」

的を得ないことを言いながらもまた涙を流す彼女。

人の泣き顔を見て、これほど喉の奥が苦しくなるのは初めてで。

それが何なのかさえ分からないまま彼女の言葉を追った。

「ただね、ここで空と、人を見てたらね、なんかね…私は…っ独りなんだなーっ…て…。おかしいよね?私には沢山友達もいるし、家族だっているし独りなんかじゃないのに…でも心の中の『私』は、すごく…独りで…っ」

そこでしゃくりあげるお団子の金色の髪は肩に掛かって震えている。

それを見た時、俺は何かの衝動を抑えるかのように己の手を強く握っていた。




「俺はここに昇ってきたけど?お前が見えて。」

「…え?」

泣いていることには触れずに唐突に話し始めた俺に、彼女は目を丸くした。


「少なくとも、今は独りじゃないだろ?お前。」

「…うん…」

そう言って顔を上げた拍子に、肩に掛かった髪がサラッと後ろに流れていく。


普段より素直な言葉を掛けられたのは、きっと彼女の言葉の中に自分の『孤独』を見たから。

世界から拒絶されているように感じていた自分の過去と重なったから。



もう一度涙を拭った彼女は微笑んだ。

優しく吹いた風にその長い髪がふわりとなびく。


どうしてか、彼女の一つ一つが目の奥に焼きついて離れていかない。




「ありがと」




彼女から出た言葉は今まで聞いたどれよりも真っ直ぐで澄んだ響きだった。






なんで



どうかしてる、俺。




その髪に、お前に、





触れたいだなんて。







だけどその時に初めて、どうしようもなく、





強く





そう思ったんだ。









おわり
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