もう一度あなたに会いたくて(エンセレ)
息を切らして地球に繋がるゲートを走り抜けて…
出口にはあの日の美しい小川。
それでも夜の森は一段と静かで、まるで空に無数に広がる星の瞬きが聴こえてくるようだった。
地球から見た月は怖いくらいに丸くて大きい。
それに見つめられているのかと思うと、罪の意識に苛まれて目を伏せる。
ドレスの裾をきゅっと握ると、
それでも。と思う。
それでもどうしても私は…
今は夜。
あの日のように明るい時間でもないこんな夜更けにただ一人であの場所にいるはずがない。
そう思うのに
もしかしたら
もしかしたら
待ってくれているように思えてしまうのはなぜかしら。
私の抱く幻想?
それとも彼の心が私の心に呼び掛けているから?
きっと
その答えはきっとそこに行けば分かる。
息が止まる。
あの日のように小川のほとりの大きな木に真っ白な馬を付けて、その横には会いたくて仕方のなかったあの人のシルエットが月の光ではっきりと浮かび上がっていた。
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どうしてこんなに彼女が気になるのか、それの答えは本当はもう分かっていた。
神の掟に背くということに繋がるこの想いを抱き続けても、おそらく幸せな未来など来ないのかもしれない。
けれどこの胸に宿る苦しい程のそれは、もう彼女に会うことでしか収まらないということにも…気付いていた。
不意に背後に気配を感じて振り返る。
月の光に照らされたその姿は昼間に見たあの時とは全く別のようにも思えて、
パールのドレスは夜の明かりに一層映えて見えた。
ドクンドクンと忙しなく鳴る鼓動は、彼女が近付いてくるにつれて早くなる。
そしてほんの数歩の差まで詰めた時。
泣くことも、目を逸らすこともなく
彼女は
ただ美しく笑った。
「会いたかった」
零れた言葉は俺の思いと同じもの。
それを聞いた瞬間。
世界を彩る総てが君だけになった。