もう一度あなたに会いたくて(エンセレ)
―地球国・執務室―
「クンツァイトは月の住人についてどれほどの知識を持っている?」
「どうしたのですか突然。」
たくさんの書類をまとめながら手の動きは休めることなく隣で補佐をしていた四天王に尋ねれば、思っていたほどは驚いた様子も無く片眉を少しだけ上げて聞き返してきた。
またいつもの好奇心の塊である主の得意とする質問の一つに過ぎないと言ったところだろうか。
「月の住人は俺たちと同じような姿をしているが寿命がおそらく千年。俺が知っていたのはそれだけだ。あと、王家の人間は額に三日月の印があるとか…。」
「マスターのご存知の通りです。それ以上は知ることすら禁じられているはずですが。」
「どうして知ってはいけない?あんなに近くに存在している住人のことをなぜ…」
「マスター。知識を得ることに貪欲であるのは実に素晴しいことです。ですが月の事については例外です。
神の掟に背くことは例え王子であるあなたにもできません。」
「神の掟…。」
クンツァイトの言葉に手を止める。それに反応したかのように彼の動きも止まった。
「だがもう…出会ってしまった。」
彼女の美しい一つ一つを思い出しながら瞳を閉じ、小さく独り言のように呟いた俺に、彼は「え…?」と言っていたようだったがその後は何も聞いてこない。
それは俺の声が小さすぎて聞き取れなかったのか、醸す雰囲気がいつもと全く違うことに気付いたのか。
いずれにしてもその時の彼の対応に少なからず救われていた。
それ以上聞かれても自分でもまとまっていないこの気持ちを説明することも出来なかっただろうし、たとえ出来たとしても、言ってはならないことだったから。
けれどこの気持ちが何なのかはっきりと確かめたい。
もう一度だけあなたに会ってあなたのことを知りたい。
せめてその美しい姿を色付ける名前だけでも。