甘い甘いまもうさ

そんなあなたが好きだから





「まーもちゃん」

「何?」

「えへへー似合う?」

本から目線を上げたまもちゃんに、テーブルに置いてあった彼の眼鏡を掛けてにっこり微笑む。

「…何やってんだ。」

「亜美ちゃんみたいに頭良さそうに見える?インテレスティング?」

「それを言うならintellectual(知的)だ。」

「インテレク…?もう!ちょっと間違えただけじゃん!いいもん!どうせ似合わないよーだ!」

ぷいとそっぽを向いて頬を膨らませると、ごめんごめんと苦笑して頭をぽんぽん叩かれる。

そして眼鏡越しに彼の目が真っ直ぐに私の瞳に注がれていてふっと微笑むから、目も逸らせずに心臓がトクトク鳴り始めた。

「似合わなくないよ。似合わなくないけど…」

「けど?」

「せっかくのうさの綺麗な目がもったいない。」

「え?」

「ほら、このほうがいいよ。」

私がぼーっとしているうちに眼鏡は外されてしまった。

余りにも赤くなってしまっていた私につられたのか、まもちゃんも少しだけ赤くなって気まずそうに顔を逸らして咳払いを一つする。

そして今度はまもちゃんが眼鏡を掛けてしまった。

「あーーー!まもちゃんずるい!」

「何がだよ!?これは俺の眼鏡だ。本も読むしな。」

「伊達じゃん!!」

そう。伊達だから私も気兼ねなく掛けられたんだ。パパのは度がきつくて小さい頃進吾とふざけて掛けてヨロヨロになって大変だった。

「いいんだよ。この方が研究会とかでは箔が付くんだ。」

「今は研究会じゃないよ!可愛い彼女とのラブタイムでしょー??」

まもちゃんの腕に両手を絡ませてじっと見つめる。

そうしたら絡んでいた腕をばっと私の肩に持ってきてぐいっと胸元に引き寄せられた。そして本はテーブルへ。だけど眼鏡は外してくれなかった。

「俺どれくらい本読んでた?」

「んーと、二時間くらい?」

「はあ…ごめん。」

「いいよーいつもの事だし、私はこうやってまもちゃんといられるだけで幸せなんだから♪」

付き合いたての頃は本にヤキモチ焼く事なんてしょっちゅうで、そのことで彼を困らせたことが何度もあった。きっとその事もあってまもちゃんも深ーい溜め息を付いてるんだよね?

でも大丈夫。今はね、まもちゃんが一人でいるときと同じように、私といるときも自然に寛いでいてくれているって事が分かったから。

その空間に当たり前のように私を入れてくれていることが嬉しいの。

それに、本当に一緒にいられるだけで嬉しいんだよ?


「うさ…」

そう言って微笑んだけれど、ちょっと泣きそうな顔。でも眼鏡を掛けているからいつもより少し分かりづらいな。

私はさっきよりも無防備になった彼から眼鏡を外した。

「あ、こら今外すな…!」

「まもちゃん?眼鏡は照れ隠しの道具じゃないですよ?」

赤くなって困惑している彼を、何だかいつもより可愛く思えてしまった私はそんな事を言ってみる。

「うさ!からかうなよ!」

がばっと覆いかぶさってきた彼に私はキャーキャー言って笑う。

でも。

急に目の前に静かに私を見下ろす彼の瞳に笑い声も引っ込んだ。



あれ?いつの間にまもちゃんが上にいるんだろう。


そんな事を思っている間に彼の唇が重なって。

とっても優しいそのキスに、私の心臓はやっぱりトクトク鳴り続けてどんどん速くなる。

唇が離れてお互いの瞳がまた重なって。

彼が体を起こそうとする気配を感じた私は両頬を手で包んで額をこつんと当てる。

「何…?」

少し遠慮がちなその声。でも甘い甘い、声。

「まもちゃん、だーいすき。」

ふふっと笑いながら何度言っても言っても全然足りない言葉を告げる。

そしたらきゅうっと抱き締められて、彼の『だいすき』を全身で感じた。









おわり
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