甘い甘いまもうさ
絶対的に君が足りない
「じゃあまもちゃん行ってくるね…」
「ああ。行ってらっしゃい。」
わざわざ俺のマンションまで挨拶に来た彼女に玄関先で笑顔でそう返す。
「ううっ…まもちゃんに半月も会えないなんて寂しいよおっ!!」
目を潤ませて言うと、俺の袖をぐいと掴む。
「そう言うなよ。楽しい旅行が待ってるんだろ?」
「そうだけど…!」
彼女の母親が先日、何かの懸賞でヨーロッパ旅行を当てた。本当だったら父親と行く予定だったのだが仕事の都合で行けず、丁度今日から夏休みのうさにその権利が与えられたのだそうだ。
弟の進悟くんが不満タラタラだったのは言うまでもないけれど、彼は小学校のときから所属しているサッカーチームの合宿が見事に重なっていたため断念。
土産を死ぬほど買ってこないと敷居を跨がせないとかおやつ半年抜きだとか脅されたと言っていた。
相変わらず彼女は弟に色々な意味で勝てないらしい。
「お土産楽しみにしているよ。」
「うん…いっぱい買ってくるから!!」
「進悟くんにも忘れずにな。」
「げ…いや~なこと思い出した。」
ようやく見せた笑顔が一気に暗い表情になってしまい、自分の皮肉めいた性格をこの時ばかりは後悔する。
「ごめん。でも本当に楽しんで来いよな。ヨーロッパの名所を巡れるなんてなかなかないんだから。」
頭にポンと手を置いて優しく語り掛ける。
「そう…そうだよね!うん!楽しんでくる。それで、絵葉書とか送るね!」
「ああ。待ってるよ。」
額にキスをする。
「ねえまもちゃん、こっちには?」
頬を染めながら瞳を閉じて顔を上げる可愛らしい仕草に微笑むとすぐに唇を塞いで、二度目の行ってらっしゃいを囁いた。
うさがいない期間、ここぞとばかり賢人たちが家に出入りするようになった。
晃にバイクでツーリングを誘われたり、要に彼のピアノのミニコンサートに招待されたりもした。
だからなんだかんだで夏休みを楽しんでいたのだけれどやはり夜になると寂しさが募る。
今夜も一人ベッドに寝転び意味もなく寝返りを数回打つ。
うさはこんな気持ちだったのだろうか。俺が留学に行っている一年間…。
勿論俺だって寂しかったけれど、新しい環境の中で日々追われる学業の忙しさ、夢に近づける楽しさがあったからやってこれた。
だけど残された方は―――――
同じ場所、同じ景色、同じ空気。
それなのに大切な一人が絶対的に欠けている。
他の何もかもが変わらない。だからこそ恋人の存在が寂しさと共に浮き彫りにされるのだろう。
こんな想いを一年間もさせてたかと思うと仕方が無かったこととはいえ若干の後悔が胸に広がった。
そしてそれに引き換え自分はまだ数日なのにこの状態という有様が情けなかった。
枕に顔を埋めると、昨日の国際電話でのうさとの会話が思い出される。
絵葉書は約束どおり送られてきたけれど、声を聞くのは二週間ぶりだった。
久しぶりに聞く彼女の声は元気そのもので、フランスのお菓子とイタリアのジェラートが美味しかったとやはり食べ物の話ばかりで苦笑した。
世界遺産はどうだったかと聞けば、ヴェルサイユ宮殿は広くて迷子になったとか真実の口は怖くて手を入れられなかったとか
…なんともうさらしい答えが返ってきた。
「楽しそうで良かったよ。」
『うん!!』
電話の向こうの彼女は本当に元気だ。何万キロも離れた場所にいるなんて信じられないくらい近くに聞こえる。
思っていたより彼女が寂しがっていないことに安堵したけれど、その分俺が寂しくなった。
「いつ帰ってくる…?」
『え?…あと3日だよ。えっと…行く前にも言ったよね…?』
「そうか。」
『まもちゃん?』
呼ばれてはっと気付いた俺は、自分の気持ちを彼女に感付かれないように電話料金を心配するフリをする。
そしてそのあとは早々に受話器を置いた。
「うさ…会いたい…。」
本音が零れたのは誰もいない暗くて静かな部屋。
何もかもが揃っていて決定的な存在が欠けたこの部屋だった――――――
次の日の夜。賢人に飲みに誘われて、遅くまで飲んだ。
自分でもどうしようもない寂しい気持ちを少しでも紛らわしたかったのだ。とにかく何も考えられないほど飲んでしまえば、あとはぐっすり眠るだけですぐに朝が来ると思ったから。
マンションの前まで来て不意に自分の部屋を見上げれば、有り得ない光景に酒でふらついていた足が止まる。
酔っているからか?都合よく夢でも見ているんだろうか。
俺の部屋には温かく光が灯されていた。
うさ…――――――!!!!
エレベーターのボタンを押してもなかなかこないから階段を一気に駆け上がる。
夢でも何でもいいからうさに会いたかった。
鍵を勢いよく開けてドアを開ける。
「うさ!」
同時に彼女のことを呼んでいた。
「まもちゃん…?」
明るい部屋の向こうから彼女の声が聞こえる。
靴を脱いで一直線にそちらへ向かう。
するとリビングのドアが開いてうさが少し恥ずかしそうに顔を覗かせた。
「えへへ。帰ってきちゃった。」
たかだか旅行で会えなかったくらいでこんなに寂しくなるなんて予想もしていなくて。
会えなかった分だけ彼女の存在の大きさを改めて感じて。
自分がどれだけうさの事が好きなのかということを再確認した。
「まもちゃん電話で泣きそうだったような気がして…」
「おかえり」
言い終わらないうちにそう言った。
存在を確かめるように。
夢でないことを確かめるために。
ぎゅうっと力強く抱きしめながら。
「ただいま♪」
何となく嬉しそうにそう言って俺の胸に頬ずりする彼女は続けて問いかける。
「寂しかった?」
「…ああ。」
酒の力もあって素直に白状すれば、「うんやっぱり早く帰ってきて良かった♪♪」と彼女は今度は腰に腕を回して抱きしめ返しながら呟いた。
「旅行はやっぱりまもちゃんと一緒に行きたいな。」
「俺も。ずっと一緒にいて欲しい。」
またしてもつい出てしまった本音に彼女は目を見開いていた。
「まもちゃん…!?酔ってる!?」
そこで初めて気付いたうさは慌ててそう言い顔を赤くする。
「…酔ってるよ。だからうさが治して。」
「ど…どうしたら…!」
あっお水か!なんて言いながら腕の中から出ていこうとする彼女を離れないように抱き寄せる。
そして吸い付くようなキスをする。
「こうすればいいから」
唇を何度も重ねてうさを感じる。
足りなかった分だけ何度も…何度も。
そして最後に、真っ赤になっている耳に唇を寄せて二度目のお帰りを囁いた。
おわり
「じゃあまもちゃん行ってくるね…」
「ああ。行ってらっしゃい。」
わざわざ俺のマンションまで挨拶に来た彼女に玄関先で笑顔でそう返す。
「ううっ…まもちゃんに半月も会えないなんて寂しいよおっ!!」
目を潤ませて言うと、俺の袖をぐいと掴む。
「そう言うなよ。楽しい旅行が待ってるんだろ?」
「そうだけど…!」
彼女の母親が先日、何かの懸賞でヨーロッパ旅行を当てた。本当だったら父親と行く予定だったのだが仕事の都合で行けず、丁度今日から夏休みのうさにその権利が与えられたのだそうだ。
弟の進悟くんが不満タラタラだったのは言うまでもないけれど、彼は小学校のときから所属しているサッカーチームの合宿が見事に重なっていたため断念。
土産を死ぬほど買ってこないと敷居を跨がせないとかおやつ半年抜きだとか脅されたと言っていた。
相変わらず彼女は弟に色々な意味で勝てないらしい。
「お土産楽しみにしているよ。」
「うん…いっぱい買ってくるから!!」
「進悟くんにも忘れずにな。」
「げ…いや~なこと思い出した。」
ようやく見せた笑顔が一気に暗い表情になってしまい、自分の皮肉めいた性格をこの時ばかりは後悔する。
「ごめん。でも本当に楽しんで来いよな。ヨーロッパの名所を巡れるなんてなかなかないんだから。」
頭にポンと手を置いて優しく語り掛ける。
「そう…そうだよね!うん!楽しんでくる。それで、絵葉書とか送るね!」
「ああ。待ってるよ。」
額にキスをする。
「ねえまもちゃん、こっちには?」
頬を染めながら瞳を閉じて顔を上げる可愛らしい仕草に微笑むとすぐに唇を塞いで、二度目の行ってらっしゃいを囁いた。
うさがいない期間、ここぞとばかり賢人たちが家に出入りするようになった。
晃にバイクでツーリングを誘われたり、要に彼のピアノのミニコンサートに招待されたりもした。
だからなんだかんだで夏休みを楽しんでいたのだけれどやはり夜になると寂しさが募る。
今夜も一人ベッドに寝転び意味もなく寝返りを数回打つ。
うさはこんな気持ちだったのだろうか。俺が留学に行っている一年間…。
勿論俺だって寂しかったけれど、新しい環境の中で日々追われる学業の忙しさ、夢に近づける楽しさがあったからやってこれた。
だけど残された方は―――――
同じ場所、同じ景色、同じ空気。
それなのに大切な一人が絶対的に欠けている。
他の何もかもが変わらない。だからこそ恋人の存在が寂しさと共に浮き彫りにされるのだろう。
こんな想いを一年間もさせてたかと思うと仕方が無かったこととはいえ若干の後悔が胸に広がった。
そしてそれに引き換え自分はまだ数日なのにこの状態という有様が情けなかった。
枕に顔を埋めると、昨日の国際電話でのうさとの会話が思い出される。
絵葉書は約束どおり送られてきたけれど、声を聞くのは二週間ぶりだった。
久しぶりに聞く彼女の声は元気そのもので、フランスのお菓子とイタリアのジェラートが美味しかったとやはり食べ物の話ばかりで苦笑した。
世界遺産はどうだったかと聞けば、ヴェルサイユ宮殿は広くて迷子になったとか真実の口は怖くて手を入れられなかったとか
…なんともうさらしい答えが返ってきた。
「楽しそうで良かったよ。」
『うん!!』
電話の向こうの彼女は本当に元気だ。何万キロも離れた場所にいるなんて信じられないくらい近くに聞こえる。
思っていたより彼女が寂しがっていないことに安堵したけれど、その分俺が寂しくなった。
「いつ帰ってくる…?」
『え?…あと3日だよ。えっと…行く前にも言ったよね…?』
「そうか。」
『まもちゃん?』
呼ばれてはっと気付いた俺は、自分の気持ちを彼女に感付かれないように電話料金を心配するフリをする。
そしてそのあとは早々に受話器を置いた。
「うさ…会いたい…。」
本音が零れたのは誰もいない暗くて静かな部屋。
何もかもが揃っていて決定的な存在が欠けたこの部屋だった――――――
次の日の夜。賢人に飲みに誘われて、遅くまで飲んだ。
自分でもどうしようもない寂しい気持ちを少しでも紛らわしたかったのだ。とにかく何も考えられないほど飲んでしまえば、あとはぐっすり眠るだけですぐに朝が来ると思ったから。
マンションの前まで来て不意に自分の部屋を見上げれば、有り得ない光景に酒でふらついていた足が止まる。
酔っているからか?都合よく夢でも見ているんだろうか。
俺の部屋には温かく光が灯されていた。
うさ…――――――!!!!
エレベーターのボタンを押してもなかなかこないから階段を一気に駆け上がる。
夢でも何でもいいからうさに会いたかった。
鍵を勢いよく開けてドアを開ける。
「うさ!」
同時に彼女のことを呼んでいた。
「まもちゃん…?」
明るい部屋の向こうから彼女の声が聞こえる。
靴を脱いで一直線にそちらへ向かう。
するとリビングのドアが開いてうさが少し恥ずかしそうに顔を覗かせた。
「えへへ。帰ってきちゃった。」
たかだか旅行で会えなかったくらいでこんなに寂しくなるなんて予想もしていなくて。
会えなかった分だけ彼女の存在の大きさを改めて感じて。
自分がどれだけうさの事が好きなのかということを再確認した。
「まもちゃん電話で泣きそうだったような気がして…」
「おかえり」
言い終わらないうちにそう言った。
存在を確かめるように。
夢でないことを確かめるために。
ぎゅうっと力強く抱きしめながら。
「ただいま♪」
何となく嬉しそうにそう言って俺の胸に頬ずりする彼女は続けて問いかける。
「寂しかった?」
「…ああ。」
酒の力もあって素直に白状すれば、「うんやっぱり早く帰ってきて良かった♪♪」と彼女は今度は腰に腕を回して抱きしめ返しながら呟いた。
「旅行はやっぱりまもちゃんと一緒に行きたいな。」
「俺も。ずっと一緒にいて欲しい。」
またしてもつい出てしまった本音に彼女は目を見開いていた。
「まもちゃん…!?酔ってる!?」
そこで初めて気付いたうさは慌ててそう言い顔を赤くする。
「…酔ってるよ。だからうさが治して。」
「ど…どうしたら…!」
あっお水か!なんて言いながら腕の中から出ていこうとする彼女を離れないように抱き寄せる。
そして吸い付くようなキスをする。
「こうすればいいから」
唇を何度も重ねてうさを感じる。
足りなかった分だけ何度も…何度も。
そして最後に、真っ赤になっている耳に唇を寄せて二度目のお帰りを囁いた。
おわり
