甘い甘いまもうさ

うたた寝
※キンクイ

セレニティと肩を並べて会議に出席しているときだった。
いつも通り前置きの長い大臣の言葉を聞いている最中、視界の端にかくりと肩が揺れるのが映ってそっと隣を伺う。

やっぱりな…

俺は妻の無防備な寝姿に苦笑する。幸い、今議案を発表している大臣は手元の資料から目を離していないし、周りの人間も同じように視線を落としているため気付かない。

難しい話になるとすぐに眠ってしまう妻の昔から変わらないその姿は、最近ではあまり見ることもなかったから懐かしさで笑みが浮かんでしまうのも仕方がない。クイーンになってからは公務の時は俺自身も目を見張るほど努力してしっかりと仕事とも向き合っていた。今まで欠伸を噛み殺す姿は何度も見たけれど、眠ってしまわないように頑張っていたのだ。だからこうして会議中にうたた寝をしてしまうのには相応な訳があった。

俺は妻の膝から落ちかかっているブランケットを掛け直し、命が宿っているその箇所をそっと撫でた。

妊娠中は眠くなりやすいようで、それは女王である妻も変わりはない。安定期に入ったから公務にも出来るだけ出たいという彼女の要望を聞き入れ今日もこうしていたのだが、本心として愛する妻に無理をさせたくなかった。だからそう言ってきた彼女に初めは返事を少しだけ渋ったのだけれど…

『そのほうがエンディミオンの側にたくさんいられるでしょ?お願い。絶対に無理はしないから。私、あなたの側にいる時が一番安心するし、落ち着くの。』

そう、じっと見上げられて殺人的に可愛くお願いされては強く反対もできなかった。

しかも誰よりも愛しい彼女にそんなことを言われたら断れる男などいないのではないだろうか。

聞き入れた代わりに自分自身に固く誓った。絶対に無理はさせないことと、何かあったら2人分の命を全力で守り通すということを。

「全く君は。」

ぼそっと零すと自分の肩に凭れさせて可愛い顔をして眠る彼女の頭を優しく撫でる。

妊娠中に眠い時は寝かせてあげるのが一番いい。お腹の中の子もきっと安心して眠れる。

議案が読み終わったら妻を寝室に運ぶと伝えよう。


そんな時、目の前に座っていた若い臣下がふと顔を上げて目が合った。

人差し指を口元で立てて緩く弧を描いて目を細めれば、何故か真っ赤になって心得たと言うようにこくこく頷いて再び慌てて資料に目を落とすのだった。

長い大臣の話も、妻の頭を撫で続ける時間としては短くて。やはり自分も一緒にそのまま休憩させてもらおうと数分後の計画を頭の中で真剣に立て始めた。
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