short or long?(まもうさ)
『お団子頭』
そう呼ばなくなってどれくらい経っただろう。
今にして思えばあの時から、明るく表情豊かな彼女にぴったり合った髪型が可愛くて…ついつい出てしまう嫌味と共に呼んでいたのだろう。
それと、そうとは気付かないうちから遥か昔の恋人とシルエットを重ね合わせていたのかもしれない。
今日は俺の家で、以前見逃していた映画のDVDをうさが嬉しそうに借りてきて二人で観ていた。
映画の内容は元スパイの男と何も知らない女が旅先で出会って恋をし、結婚後に他のスパイに男が命を狙われて妻となった女も事実を知り巻き込まれていくという…いかにもアメリカ映画らしいアクションラブコメディーだ。
うさは派手な銃撃シーンにわあきゃあ叫び、二人のラブシーンでは顔を真っ赤にしながらも画面を食い入るように見ていて、俺は映画よりも彼女の反応が面白くて気付かれぬように頬を緩ませていた。
映画の女優が、結婚をした後で髪が短くなるのだが、それを見ていたうさが急に俺に話しかけてくる。
「ねえまもちゃん。この女優さん、髪が短いほうが可愛いね!」
「そうか?」
「そうだよ~!」
画面の中の女性の髪形のことなんて特に関心もない俺は気のない返事をしてしまった。
だけど彼女が次に呟く言葉を聞き流す訳にはいかなくなる。
「私も…髪切ろうかな。」
「え!?」
思わず大きな声で聞き返して彼女を見たけれど、さして問題無さそうに話し続ける。
「さすがにね、ちょっと長いなって思うことあるんだよね。ほら!髪の毛洗うときなんてシャンプーたくさん使っちゃうし!
亜美ちゃんまでとはいかなくても、せめてまこちゃんやみちるさんくらいにはしたいかなあって…」
「駄目だ!!」
「え?」
間髪入れずに制した俺にさすがに驚いてキョトンとするうさ。
そういう自分も咄嗟に出た言葉に驚いてばつが悪くなり口元を手で抑えた。
俺はうさの長い髪が好きだった。
サラサラで金糸のように美しい髪に触れるのが好きだった。
そしてもちろん二つに結われているお団子も好きで…
解いてシーツに横たわるときの広がるその髪は、まるで月の光のカーテンのようで。うさの体と一緒に包み込まれると愛しさと心地よさで酷く安心する自分がいる。
彼女の長い髪の毛は最早彼女の一部。そう思っていた。
だけどそんな風に俺の思いを押し付けるのも考えてみればおかしな話だ。
一度溜息を付くとうさに向き直って頭をポンと優しく叩いて微笑む。
