そのままの君でいて(まもうさ)


大人の女性は必要以上は喋らない。

大人の女性は相手のすることを尊重する。

大人の女性はやたらと自分から好きだの愛してるだの言わない。





まもちゃんと比べたらまだまだ子供な私は、世の中で言う大人の女性に少しでも近付けるように、みちるさんやせつなさんにそれとなく聞いて自分なりに実践してみようと思っていた。



まもちゃんに釣り合うような女の子になりたくて。

まもちゃんにもっと好きになってもらえるような女性になりたくて…。












放課後。いつものように彼のマンションに来ていた私は、いつものように難しそうな本を読み耽る大好きな人の隣に座っていた。

いつもならぴったり寄り添って色々なことを話し掛けるところだけど、集中している彼を邪魔したら大人の女性にはなれないと思い、今日は何も話し掛けずに自分も買っていた雑誌を少し離れた場所に座り直して読むことにした。

移動した後、まもちゃんが私の方を不思議そうに見たからにっこりと笑ってぎこちなく雑誌に目を落とす。



だけど結局慣れないことをしているから雑誌の内容なんて全く頭に入らなくて、気が付けば目線の先は彼の横顔。

話し掛けたい衝動にウズウズしながらも、大人の女性…大人の女性…と心の中で唱えて何とか平静と彼との距離を保っていた。


同じページを意味もなく見ていた間もないころ、右側にピタリと彼の体温を急に感じてドキリと顔をそちらに向ける。


彼が読んでいた筈の本はいつの間にかテーブルに置いてあって、活字に注ぎ込まれていた眼差しはただ一点。私のことを見つめていた。


「どうした…?なんで…話さないんだ?」

「お…大人の女性なの!」


あれ?

おかしいな。

まもちゃんはいつも本に集中している筈なのに何でこんなこと聞くんだろう。

「何?それ。」

良かれと思ってしていたのに若干不機嫌な顔で聞かれて戸惑う。


「あの…だからね?いつもまもちゃんのこと邪魔して子供みたいに甘えてばっかりだから、今日から変わってみようと思ったの!」

私は、そのあとみちるさんたちから聞いた大人の女性のことについて一気に話す。

まもちゃんは黙って聞いてくれていたけどなんだか納得いかない表情を浮かべていた。

「でもそれって、一般論だろ?」

「一般論?」

「確かに相手のことを尊重するのは大事だとは思うけど、そのためにうさが無理したり我慢するのは…嫌だな。」

「そうなの…?」

「そう。いつもみたいにうさの話が聞けないと、なんだか…」

「なんだか…?」

私が覗き込んで聞き返すと、彼は目元を少し赤くしてすいっと目を逸らした。

次に無言で私の手を引くと、先にソファーに腰掛けて膝の上に座らせた。

突然の密着に私は顔をみるみるうちに赤くしていく。

「まもちゃん…?」

ぎゅうっと後ろから抱き付かれて心臓がはち切れそうだった。

「言って…?」

耳元で囁かれてビクンと反応する自分の体が恥ずかしい。

「…何を?」


「俺のこと好きだって。今日は一度も聞いてない。」

「それは…大人の女性は…」

「まだそれを言うのか?」


また不機嫌そうに言う彼に焦って振り向く。

だけどその瞳はとても優しく私のことを見ていて、全てをふんわり包み込んでくれているようだった。


「俺の前ではうさはうさでいいんだ。」

「まもちゃん…」

「うさが話さないとなんだか寂しい。自分は本読んでるくせにな…。俺自身、我が儘なこと言ってると思うよ。
だけど二人が自然でいられるそんな時間がすごく心地良いから…。」

頭を撫でてくれる彼のあまり聞くことのない本音を紡ぐ一つ一つの言葉に、少しだけこんがらがっていた心がするするとほどけていった。


私は勢いよく体を反転し、腕を首に絡ませ頬を擦り寄せると、

「まもちゃん!好き!好き好き!だ~いすき!!」


そう告げていた。

まもちゃんの言葉に胸が一杯で、今まで我慢していた言葉が溢れ出てしまったのだ。



「うん。俺も。」


穏やかな声で返してくれて、優しく背中を撫でられる。


まもちゃんと目が合うとたちまち唇が塞がれて私もそれに答える。

「好き」を言葉では言い尽くせないから何度も…何度も。



「うさのそういう顔は、全然子供じゃないな。」



キスの後、少しだけ意地悪く笑いながらそう言う彼の言葉に私は耳まで真っ赤に染まって俯いた。




「うさ…」






呼ばれた後、彼に心も体も拐っていかれるのにそう時間は掛からなかった。














おわり
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