守ってあげたい(年齢逆転まもうさパロ)
いつからだろう。
俺より年上のくせに泣き虫で、冗談みたいなドジをたくさん踏んで…。色気も何も感じなかったあの人が心にそっと忍び込んできたのは。
その日は朝から体がだるかった。だけど追試を避けたかった俺は定期テストを休むなんていう選択肢は無かった。
両親がいなくて、特待生として元麻布中学校に入学した為、奨学金で通っている。だから成績は落としたく無かったし、欠席するのも避けたかった。
大丈夫。今日は得意な科目しかないし、勉強も自分の中では完璧にしてきたつもりだ。
登校中も熱が上がっている自覚はあったけれど、それも振り切って学校へと向かって行った。
テストは完璧だった。だけど体は完全にダウンしていた。
熱の為、荒い息を吐きながら帰り支度を始める。
「おい地場大丈夫か?」
クラスメートの木嶋が声を掛けてくる。
「大丈夫…ただの風邪…だから。」
「大丈夫って顔じゃないぜ!?家まで付いてってやろうか?それとも保健室行くか?」
「いや…いい。一人で帰れるから。ありがとな。」
俺は他人に優しくされることに慣れていなかった。
心を開き切れない。たとえそれが友人と呼べる相手だとしても。
「木嶋ー明日の社会のヤマ当てようぜー!」
他のクラスメートが呼び掛ける。木嶋はクラスの人気者で言わばムードメーカーだ。だから俺みたいな屈折した奴にも分け隔てなく接してくれている。
「ほら、お前のこと呼んでるぞ?俺のことはいいから…じゃあな。」
「あ!おい地場!」
木嶋は俺を呼び止めるが、クラスメートに囲まれて話し掛けられる。それを背後に感じてふらつく足取りを必死に動かすと教室を出た。
一ノ橋公園の近くまで歩くと、家のそばということもあって気が緩み始めた。
とにかく横になりたい。風邪薬は確か市販のやつがあったはず…。食べ物は…何にも食べたくない…。
早く家に…帰らなきゃ…。ベッドで…寝たい…
そこまで考えるとグラリと視界が歪んで地面が近付く。
自分が倒れたんだということに気付いたのは熱で上気した肌に、嫌に冷たいアスファルトの感触を覚えた時だった。
やばい…。動けない。
こんな時、独りであることを痛感する。
こういう風に結局は寂しがる事を分かっているはずだったのに、木嶋に頼れなかった臆病な自分を責め立てる。大人と同じ様に一人で何でもできると思っていたし、そうしてきたと思っていた。
でも、自分はまだ14歳で。風邪で弱る体も相まって悲しいくらいに脆弱な子どもなのだということを思い知らされる。
熱で霞んでいく意識の中、頭上から聞き覚えのある声が降ってきた。
「ちょっと!ちょっとアンタ大丈夫!?」
開ききらない目で確認すると、どういう訳かひどく安心して目を再び閉じる。
「うさぎ…さん…。」
それはいつも道で出くわすドジで泣き虫な月野うさぎさん、その人だった。