甘すぎる二人(キンクイ)


甘すぎる二人~夫婦編~

※プリンセス・レディ・セレニティ視点

キング、クイーン、結婚910年目



もうすぐエリオスとの結婚式。私は憧れのウエディングドレスを選びにエリオス、パパ、ママとパレスの外にある王宮御用達の仕立て屋にやって来たのだけれど…。

「これ!すっごくいいんじゃないかしら??」

「本当だね。」

「あ、こっちも!!可愛いわ~♪♪」

「うん。セレニティはなんでも似合うな。」

付き添いのはずのパパとママが何故か花嫁専用のドレスを手にとって鏡の前でママに合わせて仲睦まじく会話を繰り広げている。

「なんていうか…キングもクイーンもいつまでもお若いね。」

横で苦笑しながら婚約者の彼が言う。

ええ本当に若いわね。若すぎるわ。

勿論銀水晶の力でいつまでも姿は若いままなのだけれど。でもそういうことじゃない。内面とそれに伴う行動の話。正に、万年ラブラブカップルここに極まれり、よ。

「……いいわエリオス。『老後の楽しみ』の邪魔はしちゃ駄目よ。あたし達はあたし達で好きなものを選びましょ。」

はあっと溜め息を付いてからそう言うと、「老後って…」とますます苦い笑顔を浮かべる彼。

まあそれでもすぐに純白のふわふわなドレスたちを前にして、すぐに気持ちはリセット。仕切り直してあたし達も選び始めた。

だけど同じ部屋にいるから結局は両親の馬鹿ばかし…違った。若々しい会話は聞こえてきてしまう訳で。

「やっぱりドレス選びは楽しいわね♪毎日着てるとはいえ、もう殆んど仕事着みたいなものだもの。こうやってお休みの日にドレスに囲まれているだけで幸せな気分になるわ!」

「でも、俺は君の着ているそのドレス、好きだけどな。」

「え?」

「君がプリンセス・セレニティだったころから、ずっとね。」

「エンディミオン…」

「まあ、君が着ているのならどんなドレスでも戦闘服でもセーラー服でも。俺は似合うと思うし好きだけどな。」

パパ…一国のクイーンにセーラー服って…それはどうだろう。

「もう!もう!私だって、あなたが着るならタキシードでもブレザーの制服でも、蚊取り線香のプリントのシャツでもなんだって好きよ!!」

え、ママ最後のなにそれ。

「ありがとう。うさこ。」

「まもちゃん…」

二人ともそれでお互いを突っ込まないところ本当に摩訶不思議なんですけど。そこで甘いムードっておかしくない?

「でも俺が一番好きなのは…」

こそっと耳打ちしたらしいパパ。なんだかむず痒くなりながらも気になる私は振り返る。そしたら真っ赤になって固まっているママがいて。

何となく何を言ったのか想像できてしまったあたしはいたたまれなくなって本格的にこの場から出たくなった。だけど一応主役のあたしがいなくなるのは本末転倒だ。

エリオスは…と、彼を見れば真っ赤になって変な汗を浮かべながらも形だけはドレスを選ぶ風を装っていた。

いつもごめんエリオス。うちのパパとママが。

どうしてあの二人はオンとオフの差があんなにも激しいのやら…。

全く隙の無い、公務での二人の凛々しい姿が一瞬頭に浮かぶけど、目の前のただのラブ甘カップルを目にすればそれも吹き飛ぶわけで。

私は意を決してふっと深呼吸を一つした。

「ちょっと!パパ!ママ!あたしのドレスを選びに来たんじゃなかったの!?」

二人の世界から戻ってきたパパが何故か軽くエリオスを睨んでくる。

「だって選んだらレディは嫁に行っちゃうじゃないか。」

は?

「もーエンディミオンったらすぐ拗ねるんだから。」

くすくす笑うママとムッとした顔のパパ。

「あ…なんかすみません」

「ちょっと何謝ってるの!エリオスが謝ることなんて無いのよ!?」

あたしのちょっとした剣幕に身を引いた彼はあたしにまで謝ってる。

もー!楽しいはずの衣装選びが!なぜこんなことに!?

「ごめんなさいね二人とも。オヤゴコロって複雑なのよ。」

さすがに察してくれたママがパパの腕を引いて退散の態を取る。

向こうで私達はお茶してるから二人でゆっくり好きなの選びなさいとウインクして言うママに黙って付いていくパパ。

「溜め息付かないで。ほら!外で二人でお茶なんて久し振りじゃない?」

「…そうだな。デートなんて久し振りだな。」

ママの言葉に完全に機嫌が良くなったパパの言葉を最後にお店のドアは閉まった。


結婚したらあのラブラブな二人を見ることは少なくなるのかな。

そう思ったらちょっとだけ寂しくもなるけれど。

でも。『デート』っていう単語がパパの口から聞いたのが初めてでしかも甘すぎて。

実際すぐにはそんな感傷には浸れなかった。






おわり
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