喧嘩の後で(まもうさ)

「まもちゃんのばか!!」


バサ!!



私はそう吐き捨てると勢いよく持っていた服を投げ付けて、店から飛び出した。


まもちゃんのばかばか!

今日は絶対に許さないんだから!!



端から見たら下らない理由かもしれない。


だけどやっぱり納得いかない!!



まもちゃんは…私がどんな格好していても全然興味なんてないんだ!!



少しでも可愛く見られたくて、散々悩んで決められないから彼に聞いた。

でも全然こっち見てくれなくて、何を聞いても「うん」しか言わない。

それどころか他のお客さんに道を聞かれて笑顔で答える彼を見て、私の何かが決壊した。

私の事は見ないのにその女の人(おばあちゃん)のことは見るんだ!!






まもちゃんのばか!


女心がちっとも分かってない!!





私は一ノ橋公園まで走ってくると、さすがに疲れていつも待ち合わせをしているベンチに腰掛ける。


噴水の音が背後から涼しげに聴こえてきて春の柔らかさを感じる風が頬をなぜる。


深呼吸を一つすれば、徐々に冷静さを取り戻してきた。




こんなはずじゃなかった




せっかくの2人っきりのデートなのに




もっとウキウキワクワクするはずだったのに






出会った年からずっとバックに入れて持ち歩いている懐中時計を取り出す。





『トレードしような』





あの時の…秘密を共有して、お互いの気持ちがぐっと近付いた頃の彼の言葉を思い出す。



あの時もこの公園だった。今でもよく覚えてる。



ちょっと不器用な笑顔で私を見つめてくれたあなたにとてもドキドキしたんだ…。




あの時はそれだけで嬉しかったのに…。恋をすると欲張りになるって、本当なんだね。




一緒にいられるだけで幸せなはずなのに…





ばかは私だね…。

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