何で私はこんなにムキになって走っているんだろう…。


分からない


分からない





ううん分かってる




気が付けばあの日の高台の公園に辿り着いていた。私は街が見渡せるその場所に立ち、柵に手を置いて息を整える。



『美奈子』



アイツにそう呼ばれて本当は嬉しかった。

転生しても私と彼の関係はどこか特別のような気がして、嬉しかったんだ。


結局理由なんてなく、私はアイツのことが好きになってたんだ。



でも、私は…


普段彼氏が欲しい、付き合いたいなんて散々言ってるくせに、誰かと特別な関係になんてなったことが無くて。

北崎と過ごす時間が増えても何のかんのと理由を付けて本心を隠して…一歩踏み出す勇気が出なかった。

その涼しげな目元や、時折見せる少年のような笑顔。穏やかに話すその声にすらドキドキしていたくせに…何も言えなかった。




だけどそれで良かったんだ。

北崎賢人にはその人生を共に歩いてきた大切な彼女がいる。

だから



この目から出てくるしょっぱいものが止まったら私はまた普段通りの愛野美奈子に戻ればいい。


大丈夫



どうってことない



失恋なんて、慣れてるんだから。




「愛野！」




そのがっしりと力強い腕が私の肩を掴んで強引に振り向かせる。


「な…んでぇ？」


見ないで


見ないでよ


こんなぐちゃぐちゃな顔…


私はその腕を振りほどいて逃げ出そうとする。でも、彼は私の手を握り離してくれない。


「何でよ！何で追いかけたりするのよ！」

彼女がいるのに

「私のことなんて放っておけばいいじゃない！！」

やだ

やだ

こんなに小さくて醜い部分をさらけ出したくなんてないのに…。

私の口は言うことなんか聞いてくれない。止まらない。



「バカ！彼女の所に戻りなさいよ！！」

「彼女じゃない」

「そうよ彼女のところに………え？」

今、彼女じゃないって…言った？

北崎は、ふうっと長い溜め息を付いて弱々しく笑う。

「全く。昔からお前は、短気で早とちりで…すぐに突っ走るんだから。」

「う…うるさいわね。分かったから！手、離しなさいよ！」

私の手は北崎の大きくて温かな手で握られていて、とにかく無性に落ち着かない。

「もう逃げないか？」

そう言う彼の顔は真面目に私を見つめていて…ドキドキするのと同時に、あんなにムカムカしていた気持ちが消えていくのが分かった。


「…逃げないから。」


私は小さくそう言った。