その名前は(クン美奈)



「美奈子」


アイツが私をそう呼んだ。ゴールデンクリスタルの力で再び地球に転生した四天王。そのリーダーのあの男が。

彼の転生後の名前は北崎賢人(けんと)というらしい。信じられないことに、十番街に彼の住居はあった。ダークキングダムに操られてから三年の月日が流れていた為、久しぶりに家に帰った時には両親が驚き、母親は涙を流して喜んでいたという。






「親父には殴られた。」

「え!?お父さんアンタのこと殴ったの!?」

クンツァイト…じゃない北崎に偶然駅前で会って何となく近くの喫茶店に入ってとりとめもない話をしていた私は、本日一番大きな声で聞き返した。

「連絡一つ寄越さないで散々心配させた挙げ句、大学も中退になったって。それはもうすごい剣幕だったよ。」

「それはだって…仕方ないじゃない。」

私がそう言うと、少し寂しげに笑った。

「ていうかアンタ大学生だったんだ?」

話題を変えたくて、わざと声の調子も明るくして聞き、頼んでいたレモンスカッシュを勢いよく飲む。

「まあな。これでも法学部に籍を置いていた。」

「ふーん。クソ真面目な北崎にはぴったりじゃない。」

「お褒めに預かり光栄です。」

片方の眉をピクリと上げてそう切り返す。昔と変わらない。この男は、私がいくらハッパかけても決して感情的にならず、やたらと丁寧な言葉で攻撃してくるのだ。

「美奈子」

「名前で呼ばないで。」

何でだろう。イライラする。

そりゃ、前世ではこの男とは何度か会ったし、立場も似ていて少し気にはなっていた。

でも、『北崎賢人』とはほとんど面識無くて彼自身がどんな人で、どんな人生を歩んできたかなんて全く知らないのだ。

そう。だからそんなにすぐに名前でなんて呼ばれたくない。

「じゃあ、愛野。」

「…。何よ?」

律儀に直されるのも何だか面白くない。

何で?何でムカムカするんだろ。確かに私は気が短いけれど、この男といると、それ以外の何かが気持ちを乱してくる。

「俺はそろそろ行くよ。帰って勉強だ。この際だからもっといい大学に編入しようと思ってる。」

私が不機嫌な顔をしていてもお構い無しに話して立ち上がる。手元を見れば伝票をスルリと取っていった。私は慌てて荷物をまとめて席を立つ。

「ちょっと待ってよ!アンタに奢られる筋合いは無いわよ!?」

すると彼は振り返り涼しげに微笑むと伝票をひらひらと揺らす。

私はうっかりその笑顔に赤くなってしまい、かぶりを振って我に帰る。

「北崎!」

私が引き下がらないのを見て、ふっと短く溜め息をついてさっさと会計を始めた。

「話を聞いてもらった礼だ。素直に奢られろ。」

代金を払いながら横目でそう私に言う。

どうだろうこの上からの態度は。

呆気に取られていると会計を済ませた彼が私のことを正面から見てきた。

「な…何よ?」

ち…近いわよ

そういう気は無いはずなのに心臓が早鐘のように鳴っている。

そんな私を面白がるようにニヤッと笑う。

「俺のことは賢人って呼んでいいぞ。」

「…呼ばない!」

あーもうやだこの男!

絶対馴れ合ったりなんてしないんだから!!


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