黄昏の旋律(ゾイマキュ)
この絵は、ここに置いて行こう。
今ゾイサイトに会えば、私の意思とは関係なく、甘く渦巻くこの感情が飛び出してしまうかもしれないから―――
私はそっとドアの前に絵を立て掛けると、振り返ることなく森に走っていた。
ゾイサイトの色んな表情が知りたかった
どんなことを言うのか聞いてみたかった
でも
それを知ったからって
聞いたからって
どうなるの?
私は月へのゲートまで続く場所まで来ると、初めて後ろを振り向く。
木々のざわめきと、森の香りを運ぶ風が、一陣通りすぎる。
空を見ると、まだ夕焼けが広がっていて辺りをオレンジに染め上げていた。
私は彼に会って、一体どうするつもりだったの?
耳の奥にはまださっきのピアノの音が残っているようだった。
私がゲートに入ろうとしたその時、ものすごい速さで馬を走らせる音が聞こえてきた。
「マーキュリー!」
この声…
私は信じられない思いで振り返る。
「…んで、何で…逃げるの?」
彼はよっぽど急いで追いかけてきたのだろう。息は荒く、額にはうっすらと汗を浮かべて聞いてくる。
いつも冷静な彼からは思いもつかないその姿に驚いて、私は何も言えずにいた。
「信じらんない。盗み聞きに、置き逃げなんて。」
そう言い、馬から降りて、私の方に近付いてくる。
私はパッと目を逸らす。
「見たわよ、絵。」
ドキン…
「そう…ですか。あの絵は、あなたにあげます。」
私は目を合わせられないままそう言う。
「淡いタッチなのに力強くて…細かい部分はまるで雨音が聴こえてくるように繊細で…」
私はチラリと彼の顔を窺う。
そしたら、どこまでも優しい表情をしていて…
それだけで私の胸は一杯になってしまう。
「感動したわ。」
ニッコリと微笑む。
「そ…れは、ありがとうございます…。」
私は俯きお礼を述べる。
「やだ。顔、赤いよ?」
彼はクスクス笑う。
「こっこれは!夕日の色です!!」
私の言葉に更に声を上げて笑う。
「驚いた。あなたってお勉強ばかりの堅物じゃなかったのね。」
相変わらずの嫌味な言葉も、何だか全然悪意を感じなくて…。
気付いたら私も笑っていた。
ふと彼の笑顔の向こうの空を見れば、ひっそりと一番星が輝いていた。
まるで私の心のように…。
おわり
今ゾイサイトに会えば、私の意思とは関係なく、甘く渦巻くこの感情が飛び出してしまうかもしれないから―――
私はそっとドアの前に絵を立て掛けると、振り返ることなく森に走っていた。
ゾイサイトの色んな表情が知りたかった
どんなことを言うのか聞いてみたかった
でも
それを知ったからって
聞いたからって
どうなるの?
私は月へのゲートまで続く場所まで来ると、初めて後ろを振り向く。
木々のざわめきと、森の香りを運ぶ風が、一陣通りすぎる。
空を見ると、まだ夕焼けが広がっていて辺りをオレンジに染め上げていた。
私は彼に会って、一体どうするつもりだったの?
耳の奥にはまださっきのピアノの音が残っているようだった。
私がゲートに入ろうとしたその時、ものすごい速さで馬を走らせる音が聞こえてきた。
「マーキュリー!」
この声…
私は信じられない思いで振り返る。
「…んで、何で…逃げるの?」
彼はよっぽど急いで追いかけてきたのだろう。息は荒く、額にはうっすらと汗を浮かべて聞いてくる。
いつも冷静な彼からは思いもつかないその姿に驚いて、私は何も言えずにいた。
「信じらんない。盗み聞きに、置き逃げなんて。」
そう言い、馬から降りて、私の方に近付いてくる。
私はパッと目を逸らす。
「見たわよ、絵。」
ドキン…
「そう…ですか。あの絵は、あなたにあげます。」
私は目を合わせられないままそう言う。
「淡いタッチなのに力強くて…細かい部分はまるで雨音が聴こえてくるように繊細で…」
私はチラリと彼の顔を窺う。
そしたら、どこまでも優しい表情をしていて…
それだけで私の胸は一杯になってしまう。
「感動したわ。」
ニッコリと微笑む。
「そ…れは、ありがとうございます…。」
私は俯きお礼を述べる。
「やだ。顔、赤いよ?」
彼はクスクス笑う。
「こっこれは!夕日の色です!!」
私の言葉に更に声を上げて笑う。
「驚いた。あなたってお勉強ばかりの堅物じゃなかったのね。」
相変わらずの嫌味な言葉も、何だか全然悪意を感じなくて…。
気付いたら私も笑っていた。
ふと彼の笑顔の向こうの空を見れば、ひっそりと一番星が輝いていた。
まるで私の心のように…。
おわり