水彩の如く(ゾイマキュ)

薄いブラウンの髪は後ろで一つにまとめられ、切れ長の瞳はキラリと何かを秘めているかのように見えた。
細い顎のラインと美しく長い指は、少し中性的なものを感じさせた。

彼はガラス戸を開けて、私のことを上から下までさっと確認し、もう一度顔をじっくりと見る。

絡み付くような、逃れられない視線で。

「勝手に立ち聴き?月の守護戦士さん。」

「…っ!ごめんなさい。」

確かに黙って聴いてた私も悪い。だけど何だかすごく…

「ボーッと立ってないで、さっさとお姫様探しに行ったら?」

私は軽く睨み返す。

地球の住人全てが、月の住人のことを良く思ってはいないだろうとは察していた。だけどこうも好戦的な態度でいられては、私も少しばかり憤りを感じてしまう。


「何その目。ここにはセレニティ殿はいないよ?早く行ってよ。」

彼は明らかに面白くなさそうな顔をして、イラつかせて吐き捨てる。

「失礼しました!」

私はさっきまでの音を鳴らしていた人物が彼ということが信じられないという気持ちと怒りを露にしてそう言うと、その場を立ち去ろうとした。

けれど肩に突然水滴が落ちたことによって、私の動きは一瞬止まってしまう。


そしてその水滴は大粒なものに変わり、頭に頬に、信じられないほどの量で降り注いできた。


私はゆっくりと天を仰ぐ。

これが雨であるということに、その時初めて気が付いた―――



降りだしたこの雨がすぐに止むことは無いと思ったけれど、彼の視線が痛くてプリンセスを探しにそのまま森に戻ろうとした。

「少しここで止むの待ったら?」

でも、そんな彼の意外な言葉で再び足を止めることになる。

「え…でも、迷惑じゃないですか?私なんかを…」

ふんっと口をへの字に曲げて睨んでくる。

「ま、気は進まないけどね。だけどあなたがそのせいで風邪でも引いたりしたら、寝覚めが悪いから。」

ほら早く。と言わんばかりに顎を部屋の方にクイッと動かしてイライラと組んだ腕の上で指をトントンと叩く。

彼のその様子にあまりいい気持ちはしなかったけれど、私は一旦中へ入れてもらうことにした。

彼の横を通り過ぎる時、男性なのに花のような良い香りがして、変に心がざわついた。
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