水彩の如く(ゾイマキュ)

私は生まれて初めて「雨」を見た―――



「プリンセス!どちらへ行かれたんですか!?」

月から地球へ降り立ったプリンセスを護衛していた私――水星を守護に持つセーラーマーキュリー――は、森に入ってすぐのところで、雨雲に気をとられているとプリンセスを見失ってしまった。


雨雲…


書物で読んだだけで、実際に見るのはこれが初めてだ。


「この雲が出た後には必ず雨が降る…」

この肌寒さで、雨が降り注いでしまったら、あの方のお身体が心配だ。地球人より長寿とはいえ、風邪…なるものに掛からないとも言い切れない。


急いでプリンセスを探さないと…


私が足を速めた時だった



ポーン…ポローン…



聴いたこともない音が、繊細に緩やかに風に運ばれてきた。


その音があまりにも美しかったので、知らず知らずそちらに足を進めて行く自分がいた。


森の木々が途切れて視界がひらけると、より一層その音は明確になる。
そこは、宮殿の離れのガラス張りになっているテラスで、上窓が開いていてそこから音が漏れているようだ。

そっと近付き、中を伺うと、人より倍くらいある音を奏でる物体が置かれていた。
それには白と黒のたくさんの木片が並んでいて、押すとあの美しい響きが出るようだ。

そしてそのメロディーを作り出しているのは、その前に腰掛けて流れるように指を滑らせている一人の男性―――



その服装を見てはっとなる。以前、クンツァイトを見たときのものと同じ。つまり、王子の四天王の一人ということだ。



音が止まる



ふと視線を上げると、その男は私のことをじっと見つめていた。
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