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微笑もうとした表情が固まる。
演奏が終わって彼女のことを見れば、堰を切ったかのように泣き出したから。
隣のうさぎも気付いて慌てている。
その涙は、どんな意味を持っているの?
演奏に純粋に感動したから?
私の想いに気付いたから?
受け止められないから?
それとも、受け入れてくれたから――――?
今さっきまでピアノを意のままに操っていた手が、ただ一人の少女を抱き締めたくて。でもそれが彼女の望んでいることかも分からずに震えていた。
客席からは次々と花束を抱えた人々が手渡してくる。
それらを拒むことは出来ずに笑顔を浮かべて握手をし、受け取っていく。
本当に側にいて欲しい人の前ではあんなにも上手く笑えないのに、こんな時だけ簡単にその表情が作れる自分が酷く滑稽だ。
心の中では早くこの人の波が収まればいいと思っているのに。
「亜美ちゃん!!」
うさぎの叫び声が会場に響いて、そこにいるはずの呼ばれた少女の席を見る。
でも彼女はもう私の事は見ていなくて出口に向かって走っていた。
なんで逃げるの?
確かに演奏をしているときは彼女がどんな表情でいるのか知れればそれでいいと思っていた。
だけどあんなにも涙を流して何も言わずに去ろうとする彼女を繋ぎとめたくて、追いかけたくて。
どうしようもない気持ちが私の中で競り上がってくる。
たとえ涙の行く末が自分の望んだところに辿り着かなくても、いいと思った。
「すみません、今日はこのくらいでいいかしら?」
貼り付いたままの笑顔で周囲の人々にそう言うと、不満の声が漏れるのも差し置いてその場を後にした。
花束は舞台袖に置いてジャケットを脱ぎ捨てる。
まるで本当の自分を曝け出すかのように。
自分がこんなにも感情のままに動くだなんて、今までの人生をざっと振り返ってみても信じられないことだった。
けれどこんな自分も確かに存在していて、この状況には似合わないかもしれないけれど胸の中で心地良い風が吹いたんだ。
何かが目の前でクリアになったような感覚。
今なら『晴れ』だって好きになれるかもしれない。
そんな風に思った。