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私とうさぎちゃんが座る席は、本当に良い席で。ステージのピアノとあの人が眩しいくらいによく見えた。
西園寺さん。私、あなたが分からない。
あれだけ冷たく私を突き放したくせに、どうして?
どうしてこんなに優しくて温かい音楽を私に届けてくれるんですか?
でも彼の音楽からは私とあの人にしか分からない思い出や切ないほどの何かが伝わってくる。
それが何なのか、分かるけれど分からない。
だって西園寺さんは私の事なんて何とも想っていないって思っていたから。
あの日の続きのような霧雨の中、私を見ていたあなたはあの頃のままだった。
切れ長の瞳に細くて長い綺麗な指。
全部全部私が好きだったあの時のままで。
何か繋がりが欲しくて。
このまま別れてしまうのが嫌だという自分がいて。
だから傘を差し出したの。
そうすれば、また会える口実ができるってどこかで期待したんだ。
今日だって本当は来るつもりなんて無かった。
また拒否されたら自分の彼に対する何もかもを封印しなければならないと思ったから。
でも入り口で佇んでいた彼を見た時。
もしかしたら私の事をあの頃のように待っていてくれたんじゃないかって、驚きと戸惑いの中にあるそれ以外の感情が映ったような瞳に淡い思いを巡らせてしまったの。
それでもどうしても演奏はちゃんとして欲しかったからあんなことしか言えなかったけれど。
こんなに素敵な演奏を聴いてしまったら、止められなくなる。
勘違いしたくなる。
私に対する彼の思いを勝手に都合よく解釈してしまいたくなる。
私、今。どんな顔をしてあなたを見ればいいですか…?
演奏を終えて真っ直ぐに私の事を見る彼。
それが少し微笑んだように見えたとき。
私の瞳からはずっと押し込めていた雫がまるで今日の雨のように後から後から零れていった。
『私も待ってました』
『あなたにいつか会える日を』