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ステージに上がると客席の人々の顔がよく見える。
私は彼女を一番に見つけて、その瞳がぶつかったのを確認すると、客席から贈られる拍手に応える振りをして彼女に向かってお辞儀をした。
顔を上げると何故か周りをキョロキョロ見ている彼女に苦笑する。
だから、あなたにしたのよ。
まあいいけど。私のピアノを聴けば分かるわ。
私は椅子に腰掛けると目を閉じる。そして一曲目ショパンの『雨だれの前奏曲』を奏で始めた。
そう。前世でも現世でも。君との出会いはいつでも雨だった。
しとしと降る雨もあれば、時には嵐のような雨の日もあった。
君のカタチを叩きつける雨が象る。
まるで守護する水のオーラが白く浮かび上がっているように。
自分の『記憶』という部分をすべて埋め尽くしてしまうかのようなその姿。
二曲目のリストの『ため息』―――
前世で初めてくれた絵は、出会った日の雨を思い起こさせるようなため息がでるほど美しい一枚だった。
そして今日。来ないと思って苦しい吐息を吐いた後現れた君がそこに座っているのは、雨がくれた奇跡。
柄じゃないけど、自然にそう思う自分にいつもよりも穏やかな笑みがため息と共に生まれる。
自分がこれほど一人の少女のことばかり考えているのはプライドが邪魔して認めたくなかったけれど。
やはり君に惹かれるこの気持ちが芽生えたのは必然で。
こんなにも演奏に豊かな色が付くのは彼女がいるからなのだと、嫌でも思い知らされるんだ。
最後の曲。三曲目はリストの『愛の夢』―――
あの頃は夢の中ですら願ってはいけなかった二人のカタチ。
でも今は君が夢に出てきてしまうほど自分の願望が抑えられなくなる。
亜美
君の事をもっと知りたい
きっと君だけなんだ
自分のことをどこまでも豊かに
そして、どこまでも愚かに出来る存在は
君だけだから
言えない気持ちを音に乗せて届ける。
これが私に出来る精一杯。
いつか言葉で伝えられれば良いのだけれど。
それが実現できるかどうかは、自分でも全く期待出来ないのよ。
笑えるでしょ?
だからあなたにも言葉なんて求めていない。
演奏が全て終わった時に、あなたがどんな顔をしているのか。
今欲しいのはそれだけなのよ。