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あの日の雨は冷たくて苦しくて。
思い出すのも辛いけれど、それでも彼女との思い出はいつも雨と共にあったから。
初めて会った日も、プリンセスを共に探した日も、他愛も無いことで彼女の本当の笑顔を初めて見た日も…。
いつも優しい雨が降っていた。
そんなことを頭に描きながらピアノを弾いていたからか。
いつもの旋律よりもどこか悲しいものになってしまったかもしれない。
せっかくの陽気で華やかな『舞踏への勧誘』もこれじゃ台無しね。
弾き終わった後、誰にも気付かれないくらいの微笑を浮かべるとライトの中から退場した。
「私、あの子のこと…なーんにも知らないのよ。」
バイトを終えて、行き付けのバーに衛を誘う。
そして二杯目の水割りを口にしてから独り言のように漏らした。
「これから知っていけばいいんじゃないか?」
誰が、とか
なんで、なんていう言葉で聞き返すこともなく澱みなく蒼い瞳を向ける彼に苦笑する。
そうだ。彼はずっと昔から芯は強くて…真っ直ぐだった。
「私たちに、これからなんてあると思うの?」
カラカラとグラスの中の氷を音を立てて回しながら視線を落として聞く。
「あるかないかは分からないけれど、それは要自身が作っていけばいいと思う。それだけ相手が大切なら…さ。
まあ俺も初めの頃を考えると、人のことを偉そうに言えたものじゃないけどな。」
静かに微笑む友人は、一瞬彼自身の大切な相手に思いを馳せているかのような表情を作る。
「そうね。いいわね!相手がいる人は余裕で。」
「余裕なんかないよ。」
悪戯っぽく友人の肩を叩いて返せば、不意に真面目な顔を見せる。
「でも、これからも何かを一緒に作っていくのだとすれば、相手はずっと、彼女であって欲しいんだ。
俺の願いはそれだけ。」
「…流石は王子様だ。」
ウインクしてグラスを傾けてそう言うと、衛は少し顔を赤らめて軽く睨んできた。
「おい!人が真面目に答えてるのに。」
「分かってる。私も真面目に考えるわ。」
「要…。」
不意を付く私の発言に言葉を無くしたのは彼の方で。
そんな王子に含みたっぷりの笑顔を送ると、調子を戻した私は店のマスターにお替わりを注文をする。
そして、緩やかな雨と水色を思い出して目を閉じた。
『もう一度会うことが叶うなら』
『君はどんな言葉を紡ぐだろう』