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その日は朝から銀糸のように細い霧雨が降っていた。


雨の日は憂鬱。



そう、人は言うけれど、なぜか自分は幼い頃から嫌いではなかった。


どうしてかは分からないけれど雨が降ると、何かが始まりそうで、まるで誰かが自分に会いに来てくれるような…そんな気がしていた。


それが誰なのかは分からなかったけれど。







カオスとの戦いの最中、再び転生してから彼女に会うのはその日が二度目だった。




ゾイサイトとしてではなく西園寺要として、彼女、水野亜美に出会ったのは『あの日』の続きのような雨の中―――――






私はあまり傘が好きじゃない。これくらいの霧雨なら迷わず傘を差さないで歩くことを選ぶ。

それも幼い頃からの癖だった。

銀糸を髪に頬に柔らかく感じながら、いつものようにピアノ奏者のバイトをしているバーへと向かう途中、空を振り仰ぐ水色の髪をした少女に出会った。



人通りの少ない広場のような公園の露に濡れた芝生の上で、細かな雨を手をかざして受け止め佇むその姿は水に愛された守護神そのもので。

淡く消えてしまいそうなのに瞳は意志の強い光を宿している。

前世で見た彼女のビジョンと重なって。



あの頃に置いてきた気持ちがいとも簡単に蘇ってくるのを、ただ彼女を瞳に映しながら人事のように感じていた。



今はっきりと分かった。



あの頃も、幼い頃もずっと。雨の日には彼女を待っていたのだということを。


「何してんの、こんな往来で。」

出てくる言葉はそんなもの。

待っていただなんてそんな独り善がりな事を唐突に言えるような性格は持ち合わせていない。

「西園寺…さんこそ。」

慣れない感じでそう呼ぶ彼女に、素っ気無くしていた表情が益々固くなる。

「別に。」

「傘、差さないんですか?」

「嫌いなの。」

「そうですか。私も嫌いです。」

キライという言葉に自分の肩がピクリと動くのが分かった。

傘が。ということは分かってはいるけれど、『嫌い』と彼女の口から言われるのは自分の武装している心の内側を確かに抉るのだ。

「これ、良かったら使ってください。私の家はすぐそこだから。」

通学鞄から折り畳み傘を差し出す彼女。

「それは親切?それとも社交辞令?」

「え…?」

「いらないわ。私もこのままがいいの。」

ふいと顔を背けて棘を持って拒否する。



あなたは忘れた?

私はあの頃もこうして雨に降られるのが嫌いじゃなかったということを。





彼女の中での自分の存在がとても小さなものに思えて、歪んだ気持ちを残したまま、傷付いた風な彼女を置いて背を向けるとその場を去った。









『本当はずっと待ってたよ』

『君の事を』





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