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雨の降り方があまりにも強かったから、ここからもう殆んど距離の無い家まで一旦帰って、傘を用意してから亜美の所に行こうと駆け出した。
走りながら、そういえばまだ亜美の携帯番号や住所を聞けずじまいだった事を思い出す。
それでもなぜか予感があった。
今日は亜美に会える。
肌寒いこの季節なのに、どこか暖かい気がする雨を全身で受けながらそんな予感がしたんだ。
「西園寺さん…!!」
だけどその声を聞いて、その姿を見たときに嬉しさよりも驚きの方が先立った。
「あなた、そんな所で何してるのよ!!」
亜美が私の家の玄関先で傘も差さずにずぶ濡れで佇んでいたから。
少しくせっ毛の髪は重そうに雫を含んで滴らせていて、コートも羽織らないその体は水色のワンピースがピッタリと肌に貼り付いてしまっている。
「待ってたんです…私、西園寺さんを待ってたんです…!」
その大きな目が私のことだけを真っ直ぐに見る。
「亜美…」
「…っくしゅん!」
手を差し伸ばそうとしたときに彼女はくしゃみをしたあと体を震わせる。
亜美の言葉に今度は嬉しさが込み上げてきた気持ちがその姿で一気に引っ込む。
「馬鹿じゃないの!?あなた医者志望のくせにこんな雨の中ずっと立ってたらどうなるかってことぐらい分かるでしょ!」
「ご…めんなさい…」
突然の剣幕にしゅんとなって謝る彼女の手を迷わずに掴んで玄関前の門を開く。
「早く入って。そのまま風邪でも引かれたら寝覚めが悪いから。」
私がそう言うと、何かに気付いたように顔を上げる彼女。
「…ですね…」
「?何?ほら早く!!」
雨音に混ざった小さすぎて聞こえなかった言葉はとりあえず保留にして冷えきった彼女を家に入れた。
「お帰りなさいませ要様。」
家政婦に言われ、すぐさま亜美を彼女の前に突き出す。
「この子、すぐに綺麗にしてあげて。」
「え、あの西園寺さん…?!」
私が幼少の頃からこの家に勤めている家政婦はその人柄の良さから、亜美のことを本当に心配そうに見つめて駆け寄った。
「まあまあこんなに濡れて。かしこまりました。要様にもすぐに着替えのご用意を…」
「いい。私は自分でするから。とにかくこの子!大事な客だから頼んだわよ。」
「はい今すぐに。」
私と家政婦のやりとりをあたふたして聞いていた亜美。
そんな彼女を小さく口角を上げて見つめる。
「亜美。終わったら私の部屋に来て。分かったわね?」
「さ、西園寺さん…!」
「さあさあ亜美様こちらへ…」
顔を赤くしながらも事態の展開に付いていけずに困惑気味の彼女を見るのは何となく得したような面白いような…。
とりあえず自分の家に亜美がいることに嫌な気分はしなかった。寧ろ、今までの客人の中で一番嬉しい。
何しろ自分にとって誰よりも大切だということをさっき自覚したばかりなのだから。
「驚いた。こんなに単純なんだな…」
自室に入り扉を閉めると一人で呟く。
どうやらそれは、亜美限定らしいけれど。
とにかくさっきまで泣いていた自分が信じられないほど気分が良かった。