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亜美と衛を見たあの日から、私はもう彼女を探すことをやめていた。
衛からも何度か連絡があったけれど、それすらも無視した。
あんな姿を晒した自分が今度はどんな顔をして彼らに会えば良いのか分からなかったし、もう彼女のことでこれ以上心の中を掻き乱されたくなかった。
普段の自分がどこかに行ってしまうようなあの感覚。多分それが怖いだけなのだということに気付いていたけれど、簡単にそれを認めるのは余りにも情けないことだと感じていたから。
何も考えず、何も感じずに日々を淡々と過ごしていた。
過ごそうとしていた。
彼女に出会う前に戻るだけ。そう思っていたのに…。
あれだけ日常で感じていた様々な音が、あの日を境にパタリと止んでしまった。
あるのは無音。
耳が痛くなるほどの、音の無い世界。
どうして?
私はこんなに弱い人間だった?
只一人の人間に会わないだけで、世界が変わってしまうほどの衝撃を味わったことなんて今までにない。
大学に行けば友人にも会うし、笑いもすれば怒りもする。
でもそれらは全て上滑りの表面上だけのものになってしまって。
彼女と出会う前、自分がどんな風にそれらの表情を作れていたのか分からなくなってしまった。
こんな自分は嘘だ。
自分はもっともっと強かったはずなのに。
強い?
『私、西園寺さんが分からないんです。』
ああそうか。
私はいつだって本当の自分をはぐらかして生きてきた。
嘘を本当に見せて、本当を嘘に見せてきた。
最初から強くなんて、なかった。
彼女があんな風に言ったのは無理もない話。
けれど、彼女にだけは本当の自分を知って欲しかった。
それなのに自分の想いを演奏に託しただけで言葉や表情にはやっぱりできなくて。
そんな自分のことを知って欲しいだなんて…何て愚かなんだろう。
彼女が私に微笑み掛けなくて、当然だ。
私も彼女に対して心からの笑顔を見せたことなんて、一度も無いのだから。
彼女はもう二度と笑わないだろう。
私に『とんでもない女』と言われた彼女は、完全に拒否と受け止めて、もう私のことを見もしないだろう。
生まれて初めて愛した女をそんな風に叩きつけてしまった自分には、それは当然の報い。
だけど
溢れてきてしまうこの気持ちは?
声を聞かなくても、顔を見なくても。
結局心を掻き乱されて、それでも望んでいる変わることの無いこの気持ち。
何も映していない瞳で空を見つめる今も、思うことはただ一つ。
「会いたい」
頬を伝っていく冷たい感覚に気付いたのは、零れてしまった言葉を発したずっと後だった。