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背後でうさぎちゃんの呼ぶ声が聞こえたけれど、傘を持っているのにも拘らず閉じたまま、ひたすら走り続けた。
「亜美ちゃん!」
腕を掴まれて、不意に体を濡らしていたものが無くなる。
彼女が傘を差し出してくれていたから。
困ったように。でも本当に心配そうにしている彼女は何を聞く訳でもなく。
「一緒に帰ろう。」
そう言って微笑んでくれた。
「うさぎちゃん…」
私も微笑む。
どうして彼女はこんなに素直な笑顔を引き出せることができるのだろう…。
私のマンションに辿り着くと、エントランスで傘を閉じた彼女は酷く申し訳無さそうな顔をして私の事を見つめていた。
「亜美ちゃん、ごめんね。」
「どうしてうさぎちゃんが謝るの?」
「うん。私が一緒に行こうって誘わなければ、亜美ちゃんだって、泣かずに済んだでしょ?」
「うさぎちゃんが気にすることじゃないわ。」
「でも…」
「私だって、あんなに泣いてしまうなんて思わなかった。でもね、彼の演奏は本当に…素敵だったの。」
これは嘘じゃない。
演奏が素敵で、幸せで、涙が溢れるほど切なくて。
「亜美ちゃん…」
「だから誘ってくれてありがとう。私一人じゃ、絶対に行かなかったと思うから。」
少しの沈黙の後、彼女はゆっくりと口を開いた。
「亜美ちゃん、要さんのこと…好きなんでしょ?」
「…え?」
「あのね、要さんの演奏を聴いているときの亜美ちゃん、今まで見たことがないくらい凄く綺麗だった。隣にいた私がドキドキするくらい。
だからね、追いかけようとしない要さんのこと、つい怒っちゃったの。要さんだってあんなにラブレターみたいな演奏をしておいて…。」
ラブレターみたいな演奏。
うさぎちゃん、あなたという人は本当に…
「私も、うさぎちゃんみたいに素直になりたいな。」
「なれるよ!」
目頭が再び熱くなりかけていた私の両肩をがっしりと掴む彼女は、すごく真剣な目をしていた。
「恋したら、誰だって可愛くない事もしちゃうけど、絶対絶対素直になる事だってできるよ!」
「うさぎちゃん…」
今度こそ私は涙が零れ落ちた。
「大丈夫。亜美ちゃんは可愛いもん。私は知ってるよ。初めてルナを見た時天使だと思って笑った亜美ちゃん、すっごく可愛かったもん。
本当は素直になれる素敵な女の子だよ。」
「…ありがとう。」
彼女と話していると、自分もどんどん素直な心を出せるような気がしてくる。
彼女ほどは上手くできなくても、私は私でもう一度、西園寺さんと向き合いたい。
そう思った。