❤️💛四四で四つの季節💙💚

Winter ネフまこ『サンタより甘いやつ』

「ただいまー」
 玄関から晃の声。ちょうど本日の夕飯の味見して「よし!」と花丸をつけていたまことは、「おかえり、シチューできてるよ」と出迎えた。
「まじか!」
 大型犬よろしく抱き締めてくる晃に、こらこら落ち着けって。と背中を撫でるまことは、冬の空気を吸い込んだダウンの冷たさに苦笑する。
「ほら、ここじゃ冷えるから早くリビング行こ」
「ああ。でもその前に」
 ちゅ、と素早く唇を掠め取られてまことの目が見開く。それを見て満足そうな晃の顔。途端に恥ずかしさが火を噴いて、全く痛くない右ストレートを恋人の胸にお見舞いした。

 まことが専門学校を卒業して晃と同棲を始めてから一年。社会人としての生活もだいぶ落ち着いてきて『結婚』の話も自然と二人の中で出てくるようになり、そうなってからは更に晃の溺愛ぶりは隠すところなど一つもないくらい加速する一方だった。まことはそんな彼に愛おしさを感じつつも、素直になりきれなくて。けれどこの穏やかで楽しい日々が続いていけたらいいと静かに願える現実が、本当は泣きたくなるほど幸せだった。

 両親が亡くなったのはこんな風に寒い季節で、自分でも気付かないほどの体の強張りが常にあったのだが。うさぎ達と出会い、晃と過ごす中で心の内から温かな季節に変化していくのを感じていたから。


「ハネムーンは俺が計画するからな!」
 夕食の最中そう言って二カッと笑った晃は、深い夜となった今。まことの上で夢の中。
「重い……」
 体の半分を恋人に乗せたままの状態で眠る彼の寝顔は無防備で、さっきまで甘い激しさで求めてきた男とは思えないほど安心しきった様子で優しく寝息を立てている。
 試しに前髪を撫でてみる。案の定起きやしない。
 額をツンと押してみる。これは眉を少し動かしただけで安眠を妨害することは出来なかった。
 本気になれば一発で起きることくらい分かってはいるけれどそうしないのは、彼女自身もどこかこの状況が嬉しいというのがあるのだろう。
 好きな男とそういう関係になって、その男からたくさんの優しさと激しさと両手じゃ収まりきらない愛でぐちゃぐちゃに甘やかされた後のこの時間が、まことは堪らなく好きだった。
 まだそんなことを本人には言ったことがないし、多分これからも言えないのだろうけれど。
 
 それにしても、さすがに右腕が痺れてきた。
「やっぱりこいつ、重すぎ」
 晃の肩に手をやり持ち上げて体から離す。仰向けになってそれでもすやすや眠る彼を見たら、何だか笑えてきて仕方が無い。
「お前、どれだけ満足気な表情だよそれ」
 そう言ってから一度起こした体をベッドに戻そうとすると、急に彼に腕を引っ張られて厚い胸板に顔を押し付けられていた。
「ちょ、晃?」
 起こしたのかと慌てて顔を見れば。相変わらず規則正しい寝息を立てている。
「無意識かよ……」
 夢の中に入っても尚、自分のことを離さないこの男の行動を考えると一気に熱が顔に集まってくる。
 それでも特に抵抗もせずに大人しく彼の体に身を預けていた。
「好きだよ。晃」
 その言葉を口にした途端、なんだか自分が恥ずかしすぎて、晃の腕から抜け出して背を向けてしまう。
 けれど再び背後から抱き寄せられて「まこと可愛すぎ」なんて言われたら黙っていられるわけが無い。
「起きてたのか!?」
「いーや、今起きた。今起きられた俺マジで偉い」
「馬鹿!!」
「もっかい言って。まこと」
「っな…!」
(独り言を聞かれただけでこのはずかしさだっていうのに、この男は何考えてるんだ! 無理に決まってるだろ!?)
 晃は無言でいるまことの頭をぐしゃぐしゃに撫でると抱き締める力を強くする。
「よーし、分かった。今は言わなくていいぜ。その代わり……」

―ハネムーンでは絶対言わせてやるからな―

 耳元に強く残る、まことにとって一番弱い声がそう囁く。
(こいつ、絶対分かっててやってる)
「ああもう! 勝手に言ってなよ!」
「決めた。ハネムーン先」
 寝ぼけてるのだろうか? 会話が飛んでいる。
「俺絶対まことと大阪行きたい」
「大阪!?」
 言ってはなんだが、ハネムーンが大阪というイメージはあまり無い。
「旨いもんたっくさん食べて……あ、まことのお好み焼き旨かったな~。また作れ」
「おい」
「USJも行きてえな。この前DVDで借りてきたあれにも乗れるらしいぜ!」
「まあ、楽しそうなのも認めるし、私はそれでいいんだけど、晃は本当にいいのか? 新婚旅行が大阪で。海外とか行きたいんじゃないの?」
「もちろん。だってよ、大阪なら飛行機乗らなくても行けるじゃん」
 不意に真面目な声と言葉に胸がドキンと鳴った。
「え…」
「それに大阪と言えば天下の台所だ! 料理人のまこととしては血が騒ぐだろ?」
「いや、別に私は料理人じゃないし」
 両親を飛行機事故で亡くしたまこと。それ以来、飛行機が苦手になってしまった。
 そんな彼女のことを一番に考えている晃の優しさが嬉しいのに、やっぱり素直にはなれなくて。
「そーだな俺の嫁さんだ」
「いやそれもまだだけど!?」
「もうすぐ、なるだろ?」
 真剣な声と眼差し。それはまことの心をとらえるには充分だった。

 真っ赤になりながらも悔しげに、まー、そうだな。と返すまことに最上級の笑顔を浮かべた彼は力いっぱい抱きしめた。
 その笑顔をずっと見ていたい。そう思うまこと自身は、おそらく晃よりも心待ちにしている。一緒に肩を並べて歩く時を。
 誓いの指輪の先にある、その日々を。
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