❤️💛四四で四つの季節💙💚
Autumn ゾイ亜美『ラズベリージャム』
水野亜美は三度の飯より勉強が好き。
という訳では決してないのだが、生活の大半は勉強のことを考えているか、勉強をしているか、その勉強をした成果を上げるには何をしたらベストか考え実行しているかなので、他人から見れば勉強が好きなのだと思われても仕方がないのかもしれない。
けれど、うさぎ達というかけがえのない仲間ができてからは、亜美にとって勉強は自分の知識を高めるためだけのものではなく、得た知識を大切な人の為に使いたいと考えるようになった。一人でいたころよりも視野が広がり、夢もそれだけ大きくなった。
だからこそ、彼女のこの集中力は仕方がない。そう、仕方がないのだ。と、亜美がいる机と少し離れた場所にあるグランドピアノで『雨だれの前奏曲』を弾きながら西園寺要は自身に言い聞かせていた。
今日は要のところでお家デート♡ だったのだが、案の定というかなんというか。嬉々として分厚い参考書と辞書、ペンケースをしっかりと持ってきた亜美は会話もそこそこに実に楽しげに勉強に励み出した。
しばらくそんな時間が続いたのだが、要はどうしても気になることがあったので、数式をびっしり書き込んでいくペンを見ながら優美に鍵盤を奏でたまま聞いた。
「それ、マーキュリーの守護マークよね?」
「え? あ、これは……そう。初期の変身ペンなの」
意味ありげな眼差しで見つめられるのを視界の端で捉えた要はドキッと心臓が揺れる。と同時に演奏が止む。
そんな彼の様子に、亜美もペンを置いた。
初期とはあれだ。ここにいる男がダークキングダムの幹部として洗脳されセーラー戦士と対峙していた…あのころだ。あの時の事を許すだとか許さないだとか、そういう会話をしたことはないし、そんなに簡単な感情で片付けられるとは思っていない。しかしそれでも今はこうして再び同じ時を共有しているのだから、互いがあの頃のことを話そうという意思があるなら受け止めて一緒に前に進めたらいい……そう思っている。
「最期、これを投げ出してパワー全部をセーラームーンに託して……私の人生はそこで一度終わったの」
「亜美……」
「だから、これは私の覚悟の証。全てを投げ出しても守りたい大切な人、仲間が私にはいるんだって。このペンを持っていると、勉強することの意味を思い出させてくれるから」
「…なるほどね」
「なるほどねって、適当な返事だわ。あまり好きじゃない。馬鹿にしてますか?」
「馬鹿にしてるわけないでしょ。まあ、バカが付くほど真面目だなとは思うけど」
「あなたは! すぐそうやって」
「いいんじゃない? 亜美らしくて」
飄々と演奏を再開する要に亜美はその音色を聴いて憤慨しそうになった心が一瞬で凪いだ。
それは、とても柔らかく、温かなものだったから。
今日の演奏はまるで秋の空のように移ろいやすく、それはそのまま彼の心を映し出しているようだった。
気まぐれで、意地悪なことを言ったかと思えば不意に優しさを見せる。
そんな旋律を追うのが亜美はとても好きだった。
紅茶のいい香りに目が覚める。穏やかな演奏の中、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
顔を上げれば正面に要が座っていて、いつもの皮肉な笑みとは真逆のとても優しい笑みでこちらを見ていた。
驚きとときめきが一気に去来して思わず背筋を伸ばすと「すすすみません! 寝ちゃってました!」と声を上げる。
「いいんじゃない? それだけ私の演奏が心地よかったってことでしょ?」
楽しげに笑う彼に、平常心を保とうと頭の中で素数を数え始める亜美だが、これまた珍しく頭を撫でられるものだからどうにもうまくいかない。
自分よりも大きい手。長い指に髪をすかれると、ドキドキするのに落ち着くような、理解しきれない気持ちになるから苦手だ。けれど、決して嫌ではなくて。
「あの、あんまり子ども扱いしないで欲しいわ」
けれど出てくる言葉は何とも可愛くなくて亜美はぐっと奥歯を噛んだ。
「あら。子ども扱いなんて、するわけないじゃない」
「で、でも!」
「はーいストップ! 今から私、らしくない事言うけど、まあ紅茶のお供にでも聞いてちょうだい」
そう前置きされて亜美は黙って彼を見た。
もう。紅茶飲んでって言ってるのに…と呆れたような照れくさそうな表情を浮かべつつ、ふうと小さく一度息を吐いてから語りだす。
「僕はさ、頑張り屋さんの亜美のこと甘やかしたいだけなんだ。亜美は偉いよ。色々なことを考えて仲間のために誰にも頼らず一歩ずつ前に進んでく君は、輝いてる。だからせめて……僕には甘えてよ」
頬杖をついて切れ長の瞳を向ける彼は普段の中性的な雰囲気が消えて、包容力のある恋人としての表情で亜美を見ていた。
「かなめさん……」
「はい終了! さあ、冷めないうちに飲みましょ。今日はラズベリーと蜂蜜入りの秋色ダージリンティーを淹れてみたわ」
「ふふ、いい香りね」
ほろっと表情を和らげた亜美はいただきますと一口飲む。
「どーお?」
ふわっと甘味と酸味が絶妙に広がって、最後に紅茶本来の豊かな香りが心も身体もじんわり包んでいった。
「はい、あの……すごく好き、です」
その言葉を聞いて彼女の柔らかな表情を見た要は、少年のように嬉しそうに笑った。
水野亜美は三度の飯より勉強が好き。
という訳では決してないのだが、生活の大半は勉強のことを考えているか、勉強をしているか、その勉強をした成果を上げるには何をしたらベストか考え実行しているかなので、他人から見れば勉強が好きなのだと思われても仕方がないのかもしれない。
けれど、うさぎ達というかけがえのない仲間ができてからは、亜美にとって勉強は自分の知識を高めるためだけのものではなく、得た知識を大切な人の為に使いたいと考えるようになった。一人でいたころよりも視野が広がり、夢もそれだけ大きくなった。
だからこそ、彼女のこの集中力は仕方がない。そう、仕方がないのだ。と、亜美がいる机と少し離れた場所にあるグランドピアノで『雨だれの前奏曲』を弾きながら西園寺要は自身に言い聞かせていた。
今日は要のところでお家デート♡ だったのだが、案の定というかなんというか。嬉々として分厚い参考書と辞書、ペンケースをしっかりと持ってきた亜美は会話もそこそこに実に楽しげに勉強に励み出した。
しばらくそんな時間が続いたのだが、要はどうしても気になることがあったので、数式をびっしり書き込んでいくペンを見ながら優美に鍵盤を奏でたまま聞いた。
「それ、マーキュリーの守護マークよね?」
「え? あ、これは……そう。初期の変身ペンなの」
意味ありげな眼差しで見つめられるのを視界の端で捉えた要はドキッと心臓が揺れる。と同時に演奏が止む。
そんな彼の様子に、亜美もペンを置いた。
初期とはあれだ。ここにいる男がダークキングダムの幹部として洗脳されセーラー戦士と対峙していた…あのころだ。あの時の事を許すだとか許さないだとか、そういう会話をしたことはないし、そんなに簡単な感情で片付けられるとは思っていない。しかしそれでも今はこうして再び同じ時を共有しているのだから、互いがあの頃のことを話そうという意思があるなら受け止めて一緒に前に進めたらいい……そう思っている。
「最期、これを投げ出してパワー全部をセーラームーンに託して……私の人生はそこで一度終わったの」
「亜美……」
「だから、これは私の覚悟の証。全てを投げ出しても守りたい大切な人、仲間が私にはいるんだって。このペンを持っていると、勉強することの意味を思い出させてくれるから」
「…なるほどね」
「なるほどねって、適当な返事だわ。あまり好きじゃない。馬鹿にしてますか?」
「馬鹿にしてるわけないでしょ。まあ、バカが付くほど真面目だなとは思うけど」
「あなたは! すぐそうやって」
「いいんじゃない? 亜美らしくて」
飄々と演奏を再開する要に亜美はその音色を聴いて憤慨しそうになった心が一瞬で凪いだ。
それは、とても柔らかく、温かなものだったから。
今日の演奏はまるで秋の空のように移ろいやすく、それはそのまま彼の心を映し出しているようだった。
気まぐれで、意地悪なことを言ったかと思えば不意に優しさを見せる。
そんな旋律を追うのが亜美はとても好きだった。
紅茶のいい香りに目が覚める。穏やかな演奏の中、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
顔を上げれば正面に要が座っていて、いつもの皮肉な笑みとは真逆のとても優しい笑みでこちらを見ていた。
驚きとときめきが一気に去来して思わず背筋を伸ばすと「すすすみません! 寝ちゃってました!」と声を上げる。
「いいんじゃない? それだけ私の演奏が心地よかったってことでしょ?」
楽しげに笑う彼に、平常心を保とうと頭の中で素数を数え始める亜美だが、これまた珍しく頭を撫でられるものだからどうにもうまくいかない。
自分よりも大きい手。長い指に髪をすかれると、ドキドキするのに落ち着くような、理解しきれない気持ちになるから苦手だ。けれど、決して嫌ではなくて。
「あの、あんまり子ども扱いしないで欲しいわ」
けれど出てくる言葉は何とも可愛くなくて亜美はぐっと奥歯を噛んだ。
「あら。子ども扱いなんて、するわけないじゃない」
「で、でも!」
「はーいストップ! 今から私、らしくない事言うけど、まあ紅茶のお供にでも聞いてちょうだい」
そう前置きされて亜美は黙って彼を見た。
もう。紅茶飲んでって言ってるのに…と呆れたような照れくさそうな表情を浮かべつつ、ふうと小さく一度息を吐いてから語りだす。
「僕はさ、頑張り屋さんの亜美のこと甘やかしたいだけなんだ。亜美は偉いよ。色々なことを考えて仲間のために誰にも頼らず一歩ずつ前に進んでく君は、輝いてる。だからせめて……僕には甘えてよ」
頬杖をついて切れ長の瞳を向ける彼は普段の中性的な雰囲気が消えて、包容力のある恋人としての表情で亜美を見ていた。
「かなめさん……」
「はい終了! さあ、冷めないうちに飲みましょ。今日はラズベリーと蜂蜜入りの秋色ダージリンティーを淹れてみたわ」
「ふふ、いい香りね」
ほろっと表情を和らげた亜美はいただきますと一口飲む。
「どーお?」
ふわっと甘味と酸味が絶妙に広がって、最後に紅茶本来の豊かな香りが心も身体もじんわり包んでいった。
「はい、あの……すごく好き、です」
その言葉を聞いて彼女の柔らかな表情を見た要は、少年のように嬉しそうに笑った。