❤️💛四四で四つの季節💙💚
Spring ジェダレイ『美少女彼氏』
「レイ!」
昼休みのT・A女学院。レイは学食で下級生と談話していると、聞き慣れない声のトーンのはずなのに何度も触れている『気』を感じて振り返る。
「あ、あなた……っ」
「ここ、いいかな」
目を白黒させて固まるレイとは対照的に柔らかく微笑んでレイの隣の席に来て椅子を引く女生徒。
手には学院の自慢のパスタが載ったトレイを持っていた。
展開についていけず、珍しく混乱しているレイは、まじまじとその女生徒のことを見つめてしまう。
目鼻立ちが外国人のように整った容姿。長いまつげに抜けるような白い肌。髪は黄金色に輝き、肩まで伸びた毛先は天然に緩くカーブが掛かっている。サイドにまとめられた二つの白いリボンが愛らしかった。
「え…と、火野様? そちらの方は…」
正面に座る下級生が赤面しながら尋ねてきてレイははっとした。
「東雲エリーです。レイの親しい友人なの」
東雲エリー、ですって?!
レイは確信する。やはり、瑛二だ。間違いない。何をしているのか。ここは男子禁制の女学院。確かに見た目は男子ではない。自分よりも背は低く、大変可愛らしい女の子だ。しかしこの『気』はどう考えても瑛二なのだ。だいたい、何を呑気に自己紹介してお上品にパスタを食べているのかこの天然爆弾男が!!!!
「瑛…エリーさん、ちょっと」
おほほとお嬢様笑いで怒のオーラを誤魔化しつつ、瑛二(女の子)の腕を引くと立ち上がる。
「あ、レイまだ食べ終わってないよ」
「いいから、ちょっとお付き合いくださる?」
「う、はい……」
「瑛二さんっ! あなた一体どういうつもりですの?!」
「わー、やだなレイ、怒ってる?」
人気のない裏庭の一角で美少女二人が修羅場を迎えている。
「怒ってるわけではありませんわ。どういうつもりなのか、その理由を聞いてるの!」
髪をかきあげて見下ろしてくる眼光鋭い恋人の姿にグッと来てしまう瑛二は、照れる顔を隠そうとふいっと視線を逸らして一瞬考えたあと、改めて見上げる。その目はとても真剣だった。
「だってさ…俺、一回レイと一緒に学校でお昼ご飯食べてみたかったんだ」
「え?」
「レイが学校でどんな風に過ごしてるのか知りたかったし、一緒にご飯食べたらきっと…美味しいんだろうなって思ったら…俺今日は午前授業だったし、うさぎに変装ペン借りて来ちゃったんだ」
来ちゃった♡ が通じる男は、目の前の瑛二くらいかもしれない。と、頬を染めつつ真顔で考えてしまうレイは、存外この男(女の子)に惚れているということをあまり自覚していない。
「はぁ……うさぎにも言いたいことはたくさんあるけど、あなたもあなたね」
出てくる言葉は思った通りを言ったつもりでもかなり辛辣に響いてしまい、そんな自分にも嫌気がさす。
「ちょ、そんなしぶーい顔しなくてもいいだろっ」
けれど眉を下げる彼に毒気が抜かれ、ふっと頬を緩ませた。
「まあ、悪い気はしませんわ」
「えっ?」
「私もお昼食べたら学校終わりだから、変身解いて校門辺りで待ってて」
「あ、レイ!」
頬にキスをひとつ落としたレイは満面の笑顔で手を振る。
「ではごきげんよう、エリーさん」
「な、なな、なんだよそれ…!」
花壇のチューリップよりも赤い顔した美少女はそう言うのがやっとだった。
その後レイは瑛二の家に来ていた。庭先には沈丁花がたくさん咲いていてその香りは2階の部屋まで届き、レイの心を優しさで包んだ。
なんやかんやと今日の珍事件を振り返って二人で笑い合っていたが、不意に隣に座る瑛二の肩にレイは頭を預ける。
「ほんと、あなたと付き合ってると退屈しなくて助かるわ」
「んー…、それって褒めてる?」
「もちろんよ」
こんなにまっすぐな愛情を自分に向けてくれる男に安心感と幸福感に包まれるのはまだ少し慣れないけれど、嬉しいのも事実で。レイは見上げて美しく笑った。
瑛二はそんなとびきりの美少女な恋人に甘えられるのは何もこれが初めてではないのにどうしたって高鳴る胸を抑えるのが難しくなる。けれど、こうやって二人きりの時に彼女が自分に身を委ねてくれることが増えたのは本当に嬉しくて。瑛二自身の心も甘やかな香りに包まれる優しい時間でもあった。
腕の先で手を繋ぎ、身を寄せ合う。
「今日はびっくりさせてごめんな、レイ」
「いいのよ。今度は私が変装ペンで殿方になってあなたの男子校に行ってみようかしら?」
「そ、それはだめだ!!」
「なんでよ」
「きっとイケメンすぎて狙われるっ」
「あら。私を誰だと思ってるの? そんなの蹴散らして差し上げますわ」
「そこは、俺に守らせて」
「そうね…一緒に、『退散』させましょ……」
春の柔らかな温度と彼のぬくもりにまどろみ始めたレイに気付いてクスッと笑う瑛二。その空気を感じたレイも微笑みを返せば抱き寄せられて目を閉じる。
落とされた唇へのキスは甘い子守唄。
彼女の心に春風が吹く。
二人はまるで幼子のように身を寄せ合って眠った。