⭐︎☆🌙まもうさで、四つの季節🌏☆⭐︎

Winter 『降り積もるのは』

「あー、雪降ってきたな」
「え?」
 窓の外を見ると、確かに白い物がチラチラと景色を揺らしていた。
「どうりで研究室も冷え込むわけだ」と、今俺に声を掛けたゼミ仲間の土屋貴士が言いながら効きの悪い暖房器具ともう一度悪戦苦闘し始めた。
 うさとの待ち合わせ時間は……あと二時間はあるか。それまでにこのレポート仕上げないとな。
 瞬時に頭の中で計画し、最短ルートを編み出す。
 それには今俺がやっているこの処理は、貴士に任せた方が早い。
「この作業と交代。そっちは俺が直す」
「おう、頼むわ」


 その後。ヒーターを触って構造の流れを読み取り原因箇所を見つけて直せば、ようやく過ごしやすくなった研究室で黙々と作業を進めていった。そうなるとあっという間に時が過ぎて。予定よりも遅くなってしまっていた。
「衛! お前、うさぎちゃんと今日約束してたよな?」
「ああ」
「寒いし、女の子をこんな冬空の下待たせちゃダメだろ。もう 目処めどがつきそうだから行ってこい!」
「ああ、すまん」
 貴士の言葉をありがたく受け取り、他のメンバーにも声を掛けて身支度を始める。
「見たー? 今の地場くんの顔!」
「いーなー彼女愛されてる♡」
「はいそこの二人、衛の『愛妻家』は今に始まった事じゃないだろ。あとちょっとなんだからサクサク作業せい」
「あのさぁ、前から思ってたんだけど土屋は地場くんのなんなの?」
「保護者じゃね?」
「ちがうわっ! 親友兼、衛研究家だ」
「なにそれ?!」
 とか何とか言う四人の仲間たちの声を聞きながら。
 あのな。せめて俺が完全に消えてから話せよお前ら。

 

 俺は、クリスマスの時にうさからプレゼントされたマフラーを巻いて待ち合わせ場所に急いだ。氷の粒ほどだった雪は、傘をささなければ誤魔化せない大きさとなっていて、待ち合わせ場所を外にした事を後悔しつつ。早く恋人を温めてやりたいと気がいた。

 十番街の駅前に辿り着くと、世界に一つしかないピンクの変装ペンが変形した彼女のお気に入りの傘が視界に映る。
 そこからチラと見える横顔は頬も耳も寒さで赤かった。
「遅くなってごめんな」
 マフラーを外すと、うさが振り向くよりも先に背後から耳を覆う様に何重にも巻いてやり抱き締める。
「わぁ〜っ! ぐるぐるだ〜! あったかい♪ 」
 腕の中ではしゃぐ恋人の無邪気さに心がほぐれる。
「うさがくれたマフラー、暖かいだろ? 毎日使ってる」
「へへ。嬉しいな」
「うん。けど、人にはマフラープレゼントしておいて、なんで自分はしてこないんだ?」
 傘を代わりに持ってやり、けれど右手は抱き締めるのをやめずに彼女のお団子の横に頬を寄せて聞く。
 かなりの密着状態だが、うさは特に気にすることもなく「忘れてきちゃった。早くまもちゃんに会いたくって」なんて言ってくれるものだから抱きしめる力が強くなってしまう。そうすると楽しそうに笑う声が上がった。
 こうやって何気ないやりとりをする度に、君への想いが静かな雪のように降り積もっていく。

「なんだか、このマフラー安心する」
「ん?」
「まもちゃんの匂いがするんだもん」
 キュッとマフラーを口元に寄せてご機嫌に言う彼女は可愛いのに、何だか少し面白くない。
「ばーか」
「な、なんでっ」
 ばっと体をこちらに向けた慌てた様子に、ふっと口元が緩んだ。
 俺、多分こういうところ、この子と出会った時から変わってない。
 反省のような諦めのような。気恥ずかしさもあったけれど、とにかく今は世界で一番大事な女の子の温もりを感じたかった。
 手を広げて「ほら」と促す。

「本物は、こっちだぞ?」

 その言葉にポッと頬を染めてから、俺の大好きな笑顔を浮かべて正面から抱き着く恋人を両手で力いっぱい抱きとめる。

 足元でキラキラと細かいラメが光るうさの傘が、白い雪を反射させてくるくると回っていた。
 
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