⭐︎☆🌙まもうさで、四つの季節🌏☆⭐︎
Spring 『無意識のゼロセンチ』
学校からの帰り道。十番街の花屋の前を通りかかったとき、不意にその中のポップが目に入った。文字であればなんでも目で追ってしまうのは俺の癖かもしれない。
【4/14はオレンジデー
大切な人にオレンジ色のお花をプレゼントしませんか?】
オレンジの花は実際は白だ。花言葉は確か…『花嫁の喜び』だったか。
特に自分の生活において使うような知識ではなくても、図書館のありとあらゆる本を活字であればどんな種類でも読みあさっていた俺は、誕生花や花言葉の類のものまで頭の中にインプットされていた。
花嫁…ね。俺には縁遠い話のように思う。けれど繰り返し見る夢の中の彼女は花嫁のような白いドレスを着ていなかったか?
夢は不確かなものであるはずなのに、俺にとってはなくした記憶の唯一の手掛かりで、どんな現実よりも縋りたくなる確かなものだった。
そんな俺なのだが、ここ最近現実でも気になってしまう子が一人いる。
赤点の答案用紙を頭に投げつけてきた十番中学に通うお団子頭のその少女は、怒ったり真っ赤になったりと表情を様々に変えて俺の心のドアを無防備に開きっぱなしにさせる嵐みたいなヤツだった。
「ちょっと! ちょっとあんた!」
信号待ちで腕時計を見ていたら唐突に後ろから声をかけられて振り返る。どこか青みがかった制服の白いシャツ、目が覚めるような空色の襟。絹糸のように陽の光に透ける金の髪。今まさに考えていた彼女の登場に頭よりも先に心が体を動かしてしまった。
こんな風になってしまうのはお団子の前だけで。慣れない現象に上手い言葉が見当たらずに無言で立ち尽くしてしまう。
そんな俺にお構いなしに懐に飛び込んできたのかと思うほどの距離に息を呑んだ。
「今何時? 時計忘れちゃったのよね!」
と俺の腕に手をぐっと添えて覗き込む彼女からは、シャンプーだろうか。柑橘系の…オレンジのような香りがして思わず顔を背けた。
バカ。近いぞ。
「時計くらい持っとけよな。遅刻の常習犯」
なかなか離れようとしないお団子の額に指をつんと突けば、ばっと後ろに下がっておでこをおさえて大きな目で見つめてくる。
そんな時にもふわりと彼女の香りが掠めていき無性に落ち着かない。
役目を果たせない青になった信号が視界の隅で再び赤に変わっても、俺たちはその場を動けずに見つめ合っていた。けれど後ろを自転車が通り過ぎた時、揃ってはっとなって信号に向き直る。
「きゅ、急にそゆことしないで。びっくりするじゃない」
「…どの口が言うワケ?」
「は、はあ?」
「ばーか」
「ちょ、何よイヤミ男ー!」
再び色を変えた信号機。横断歩道を小学生のような言い合いをしながら渡る自分たちが何だかおかしくて。
嵐ではない春の風が、俺の胸を掬 っていった。
学校からの帰り道。十番街の花屋の前を通りかかったとき、不意にその中のポップが目に入った。文字であればなんでも目で追ってしまうのは俺の癖かもしれない。
【4/14はオレンジデー
大切な人にオレンジ色のお花をプレゼントしませんか?】
オレンジの花は実際は白だ。花言葉は確か…『花嫁の喜び』だったか。
特に自分の生活において使うような知識ではなくても、図書館のありとあらゆる本を活字であればどんな種類でも読みあさっていた俺は、誕生花や花言葉の類のものまで頭の中にインプットされていた。
花嫁…ね。俺には縁遠い話のように思う。けれど繰り返し見る夢の中の彼女は花嫁のような白いドレスを着ていなかったか?
夢は不確かなものであるはずなのに、俺にとってはなくした記憶の唯一の手掛かりで、どんな現実よりも縋りたくなる確かなものだった。
そんな俺なのだが、ここ最近現実でも気になってしまう子が一人いる。
赤点の答案用紙を頭に投げつけてきた十番中学に通うお団子頭のその少女は、怒ったり真っ赤になったりと表情を様々に変えて俺の心のドアを無防備に開きっぱなしにさせる嵐みたいなヤツだった。
「ちょっと! ちょっとあんた!」
信号待ちで腕時計を見ていたら唐突に後ろから声をかけられて振り返る。どこか青みがかった制服の白いシャツ、目が覚めるような空色の襟。絹糸のように陽の光に透ける金の髪。今まさに考えていた彼女の登場に頭よりも先に心が体を動かしてしまった。
こんな風になってしまうのはお団子の前だけで。慣れない現象に上手い言葉が見当たらずに無言で立ち尽くしてしまう。
そんな俺にお構いなしに懐に飛び込んできたのかと思うほどの距離に息を呑んだ。
「今何時? 時計忘れちゃったのよね!」
と俺の腕に手をぐっと添えて覗き込む彼女からは、シャンプーだろうか。柑橘系の…オレンジのような香りがして思わず顔を背けた。
バカ。近いぞ。
「時計くらい持っとけよな。遅刻の常習犯」
なかなか離れようとしないお団子の額に指をつんと突けば、ばっと後ろに下がっておでこをおさえて大きな目で見つめてくる。
そんな時にもふわりと彼女の香りが掠めていき無性に落ち着かない。
役目を果たせない青になった信号が視界の隅で再び赤に変わっても、俺たちはその場を動けずに見つめ合っていた。けれど後ろを自転車が通り過ぎた時、揃ってはっとなって信号に向き直る。
「きゅ、急にそゆことしないで。びっくりするじゃない」
「…どの口が言うワケ?」
「は、はあ?」
「ばーか」
「ちょ、何よイヤミ男ー!」
再び色を変えた信号機。横断歩道を小学生のような言い合いをしながら渡る自分たちが何だかおかしくて。
嵐ではない春の風が、俺の胸を
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