うさ誕まとめ

好き+嫌い=大好き?




6月30日。それは一年の中でも特別な日。


だけどこの時期は梅雨真っ只中で、おまけに期末試験前。

お勉強が大事なのは分かってる。だけど!

15歳の誕生日は人生で一度きり。大好きな人と一緒に過ごしたいと思うのは当然だよね?






━━━━━━━━



「うさぎちゃん。中三のテストの成績は、そのまま受験に影響するのよ?」


まもちゃんまもちゃん

誕生日誕生日…


と、授業の合間の休み時間にうさぎが呪文のようにぶつぶつ言っていたら、亜美が一気に現実に戻す言葉を投げ掛けてきた。


「あーみーちゃあーん」

万年赤点の彼女は、全国トップの才女に恨めしげな眼差しを送った。

「うさぎちゃん。責めてる訳ではないの。ただ…本当のことを言っているだけ。」

眼鏡をキラリと光らせながら微笑む天才少女に二の句が継げなくなる。

「まこちゃあーん!」

そう言ってチームの中でもお姉さん的存在のまことへ逃げるように擦り寄った。

長身のまことはうさぎを抱き止めると、仕方ないなあと言わんばかりに頭を撫でる。

「まあ私もテストは嫌だけど…。そうだ!」

「え?」

「衛さんに勉強教えてもらえばいいじゃん!で、ついでに誕生日も祝ってもらえば?」

本当ならば学生として、勉強だけするのが普通だろう。

だけど大好きな恋人のいる女子中学生には到底無理な話。

まことの提案にうさぎは飛び付いて賛成する。

「うさぎちゃん!」

亜美が喜びでグルグル回っている二人に叫ぶ。

「亜美ちゃん!」

しかし、突如真剣な眼差しをうさぎに向けられてビクリとする。

「テストは一年に何度もあるけど、月野うさぎの誕生日は一年に一回しかないんだよ!」

「…。」

一瞬黙り込む亜美にうさぎは勝利を確信するが、それは次の言葉に一気に打ちのめされる。

「詭弁ね。意味…1道理に合わないことを強引に正当化しようとする弁論。こじつけ。「―を弄(ろう)する」2《 sophism 》論理学で、外見・形式をもっともらしく見せかけた虚偽の論法。◆1は「奇弁」、2は「危弁」とも書く。また、「弁が立つ」との混同で、「詭弁が立つ」とするのは誤り。
」

「あ…亜美ちゃん…」

急に歩く辞書のようにズラリと説明されて目を白黒させるうさぎ。

「つまり、中学三年生の一学期の期末試験は一年に一度。他のテストと同じではないの。だから、うさぎちゃんの言っていることは単なるこじつけ。分かるかしら?」

「…」

「うさぎちゃん?」

目の焦点が合わないうさぎにまことも慌てる。

「あちゃー!だめだよこれ。難しいこと言われ過ぎて固まっちゃってる!!」


その後、オーバーヒート状態の彼女を呼ぶまことの声が、何度も教室に響いたという。





そして6月30日。結局亜美の忠告は横に置いて、うさぎは愛しい恋人に約束を取り付け、彼のマンションに来ていた。



もちろん、テストのことを言ったら衛に一度は反対され別の日にお祝いしようと言われたが、そこは得意のおねだり攻撃をして最後には首を縦に振らせたのだった。





「はあ~全く。うさこには敵わないよ。」

衛は深い溜め息をついて、ソファーで寛ぐ彼女を軽く睨む。

「だけど、勉強も本当にみっちりやるからな?」

「は~い♪♪」

満面の笑顔で本当に嬉しそうに手を挙げて返事をするうさぎに苦笑した。

「じゃ、ノートと教科書開いて。」

「え。もう?」

衛の言葉にうさぎはたじろぐ。

「当たり前。」

額を指先でツンと押してやれば、勉強なんてやだと顔に書いてあるような表情に吹き出してしまう。

「亜美ちゃんに怒られるのは俺も嫌だからな。」

普段は温厚の亜美が勉強がらみでは途端に怖くなることを衛も充分に知っていた。

「まもちゃんの弱虫!」

「はあ?なんだそりゃ。ほらほら、勉強。」

うさぎの茶々をまともに取り合うこともなく、既に勉強モードの衛はなかなか準備しない彼女の鞄からペンケースやノートを取り出していく。

「もう!自分でやるよお!」

ようやく準備し始めたうさぎに衛は微笑むとくしゃりと頭を撫でる。

「もしちゃんと勉強したら…」

耳元に顔を寄せる。

「たくさんご褒美してやるからな。」


ボボン!!


うさぎの顔は耳まで真っ赤になった。

「ま…もちゃ…」

彼に手を伸ばそうとするが、突然教科書を手に取る彼にそれは空振りに終わる。

負けずにもう一度腕を回そうとすると今度は立ち上がってしまったため、勢いでソファーに倒れ込んでしまう。

「じゃ、この問題解いてて。俺はコーヒー淹れてくるから。…?どうしたうさこ。」

「にゃ…にゃんでもにゃいです…。」

甘いムードからまた一気に勉強モードに戻る恋人に付いていけずにうさぎは思いっきりソファーに打ち付けた鼻を擦りながら苦笑いをする。

そういう衛も、キッチンに向かいながら分かりやすい彼女の反応に笑みを浮かべていた。







「できた!」

「見せて。」

数学の応用問題を、衛に教わってから解いてみたうさぎは今まで感じたことのないくらいの自信が沸き上がっていた。

衛の教え方はとても分かりやすかった。
うさぎのペースを大事にし、分からないところはどこから分からないのかそこまで遡ってしっかりと丁寧に教え、分かれば極上の微笑みで褒める。

それはうさぎにとってベストな教わり方だったようだ。

叱られて追い詰められるよりも褒められて伸びるタイプ。うさぎのことを誰よりも知る衛にとってそのことはすぐに分かった。




真剣な目で答案を見ている衛に緊張でドキドキして何も言えずに見つめているうさぎは、彼の長い睫毛や高い鼻、完璧すぎる横顔に次第に別のドキドキへと変わっていくのを感じていた。


すると、その口端が上がって微笑む衛に更にドキリとする。


「よくできました。」

「え?」

「全問正解。」

そして再び蕩けるような笑顔で優しく頭を撫でる。

「うそ…こんなの初めてだよ…。」

全問正解という慣れない言葉に呆けているうさぎに

「嘘じゃないよ。ちゃんと俺が教えた数式を入れてる。やればできるじゃないか。」

そう言いながらノートの数式を見せる衛。

「まもちゃーん!!」

「うわっ!?」

突然うさぎに抱き付かれて咄嗟に受け止めるがバランスを崩してソファーの下に2人して落ちてしまう。


「いて…」

「ありがとう!!」

涙目のうさぎは、腰をさすっている恋人のことを嬉しそうに見つめる。

「私、数学がこんなに分かったの生まれて初めてだよ!!ホントにホントにありがとう!!」

ぎゅうっと抱き付いてくる素直な彼女に愛しさが沸いてゆっくりと背中を撫でた。

「うさこ…」

「じゃあ次は英語ね!!」

「え…?あ、ああ。」

衛はうさぎの変わりように驚いていた。彼女はおそらく自分の誕生日も忘れて勉強に集中している。こんなうさぎを見るのは初めてで、衛自身もそうなってくれるのを望んでいたはずなのにどこか寂しいような気がしていた。


それでもせっかく珍しくやる気になっているうさぎにそんなことを言うのも気が引けて、英語の問題集に目を移していった。






本当に初めてかもしれない。うさぎが衛の部屋にきてこんなに長時間静かなのは。


衛がテストに出そうなところをピックアップして解いてみるように言うと、普段の彼女では考えられないほどの集中力で問題に没頭し始めたのだ。



衛は自分もテスト前のため、高校のテキストを開いて、もう全て分かりきっている問題をもう一度復習していた。


やる気のスイッチでも押したかな…。


うさぎのことをチラリと見て、そんなことを思いながら頬を掻いた。


「うさこ、ちょっと買い出し行ってくるから。」

「…うん。」

「何か買ってきて欲しいものあるか?」

「…うん。」

「なんだ?」

「…うん。」


これは本当に集中している…。


衛はうさぎの態度に明らかに動揺していた。

はたと気付く。いつもうさぎが来ているとき、自分も今の彼女の様なのではないかと。


話し掛けても反応が薄いのは…正直、かなり…寂しいものなんだな。


そう思いながらも彼女の集中力を途切れさせるのは悪い。衛は何も言わずに部屋を出た。









「ただいま…と。」

買い物から帰ってきた衛はうさぎの姿を見て立ち止まる。

「寝てる…。」

ノートを手にとって見ればしっかりと問題を全て終えていた。


「間違いもあるけど…頑張ったな。」


満足そうに寝ている恋人に微笑んだ。






しばらくするとうさぎがうっすらと目を開ける。

「あれ…私寝ちゃったんだ…」

ふわあ~とあくびをしながら目をこすり体を起こす。

「お疲れ。答え合わせして間違えた所は解説書いておいたから家で復習しておけよ。」

「わーホントだ!ありがとう!!まもちゃんは本当にいい先生だよ~!なんか私頭が良くなった気がするもん!」


そう言いながら帰り支度を始めるうさぎに衛は嫌な予感がした。


「じゃあ早速帰ってやってみるよ!!」

「おい。」

「?」

手首を掴まれて本当に分かっていない様子でキョトンとする彼女に脱力する。


あの時の真っ赤な反応はなんだったんだよ…。



「まあ、うさこがそれでいいなら俺は何も言わないけど。」

「え?」

「その代わり冷蔵庫にあるやつは持って帰ってくれるか?さすがに俺一人じゃ食いきれないから。」

「冷蔵庫?」

衛から離れて冷蔵庫の扉を開けるとしばしの沈黙。

目立つところに入れておいたソレが何なのかうさぎに分からない筈もなく。もともとの彼氏の家に訪問した理由を一気に思い出したうさぎは大声を上げた。

彼女の目の前にはホールのケーキの箱があった。


「お祝いは別の日にしてもいいぞ。もともと俺はそのつもりだったしな。」

衛は冷蔵庫の前から動かない彼女の背中に向かって、明らかに機嫌が悪そうに声を掛ける。


「まもちゃん…怒ってる?」

「怒ってない。」

振り向いた彼女から顔を背けて低い声でボソリと答える。

「怒ってるじゃん!!」

「だってなあ…ありえないだろ!?自分の誕生日をどうしても俺と祝いたいんだって可愛いこと言っておきながら勉強に集中しすぎて俺を先生扱いした挙げ句、忘れて帰ろうとするなんて!」



言ってしまって衛ははっとなる。

なんだ今の。勉強に嫉妬?何バカなこと言ってんだよ。
おまけに可愛いとかつい言っちまった。何なんだよ俺は!



「うわーんまもちゃんごめんなさーいっ」

ボロボロと涙を溢してそのまましゃがみ込んでいるうさぎに衛は慌てた。

「わ!泣くなよ。俺も怒鳴って悪かった!」

側に駆け寄って衛もしゃがみ込む。

「だあってえ…っ!」

まだ泣き止まないうさぎをフワリと包み込むと、

ホント、何やってんだろうな俺達は。

そう思いながら衛は溜め息をついた。




「ほら、せっかくの誕生日なんだからそんなに泣くな。」

「じゃあ…言って?」

「何を?」

「お祝いの…言葉。」

「今?」

「今がいい…」

まだしゃくり上げている恋人の瞳を真っ直ぐに見つめて衛は頬を撫でてやる。


「うさこ、誕生日おめでとう。生まれてきてくれてありがとう。俺と…出会ってくれてありがとう。」

「まもちゃん…」

頬を染めるうさぎにゆっくりと顔を近付けて、唇を重ねる。情熱的で激しいそれは、彼女の思考能力を低下させるには充分で、角度を変えるときに僅かにできる隙間で懸命に息を繋いで応えていった。




「続きは…向こうでするか。」

ニッコリと余裕の笑顔の衛に再び顔を赤くする。

「ま…まもちゃん!?」

「言っただろ?ご褒美、たくさんしてやるって。」

妖しく微笑みながら言う彼にうさぎは完全にノックダウンされた。




結局、その後の甘い時間で、うさぎに詰め込まれた知識は飛んでいったとかいかなかったとか。



「衛さんに教えてもらうのは禁止!!」



テストの成績がでたころに亜美がこのカップルに言い渡したことが、どうやら全てを物語っているようだった。



おわり
1/4ページ
スキ