2nd Kiss
何となく壁を背に床に座って黙り込む俺たち。
数分前。泣いている彼女にハンカチを手渡すと、大人しく受け取って涙をすんすん拭く様子を見て安堵した。だというのに。
「女の子に、ハンカチすぐ渡せるとか……やっぱしキザなやつぅ」
いくらか落ち着いたお団子がそんな事を言ってきた。
「お前こそ。男の前ですぐ泣くなんて、警戒心なさすぎなやつー」
「なにそれ?!」
「あのなぁ、俺は警告してやってるんだぞ。こんなよく分からない状況で、密室で。好きでもない男の前で隙見せるなって言ってるんだ」
「あ、あんたこそ! 好きでもない女の子に優しくなんてしないでよっ」
「そうか」
「そうよ!」
俺の思いは彼女にまるで伝わってない事実。自業自得のくせして一丁前に傷つくなよな俺。馬鹿みたいだ。
けれど、こんな風に頭の中も心の中もぐるぐる掻き乱されて、俺がいつもの俺らしくなくなっちまうのはこの子の前だけなんだよ。
「俺は、誰にでも優しくするわけじゃない」
本当は、一番に優しくしたい。他の誰よりも守りたい。……一緒にいたい。そう思えるのは、お前だけなんだ。
「……え?」
紅に染まる頬はなぜだか美味しそうに見えて。包みたいのに噛み付きたくなるような全く違う衝動を生んで。
潤んだ瞳は朝のカーテンを開いた先にある初夏の空みたいなのにこぼれ落ちる雫はどこか夜の香りを感じて。
彼女の全て、一つ一つが、その先にある行動を促していく。
キス、したい
「うさぎ、そーいう顔、他の男にも見せてるの?」
「そ、そういう顔って……」
思わず頬を指先でほんの少しだけ触ると、びくんと体を跳ねさせてから、更に瞳に光を集めて俺のことを見つめてきた。
だめだ、無理。キスしたい
「し、しないもん! だってこれは、胸が勝手にドキドキして……っ! もうっなんで、あんたにだけこんな……っっ」
可愛く必死に、もうどうしたって『可愛い』でしかないことを色々言ってる小さな唇。その小さな顎をくいっと持ち上げてこっちに向かせると、同時に。俺の唇を彼女のそれと重ねた。
ぴくんと一度強張った唇は、更に肩を抱き寄せてキスをやめない俺に心を解いたように次第に柔らかく吸い付いていき、開いた目も瞼を震わせながら静かに閉じられていった。
その閉じられた瞳とは反対に、この部屋のドアが開いても、しばらく彼女を離すことができずにいた。
「ねえ、変なこと聞いていい?」
キスのあと。シャツの胸元にきゅっとしがみついたお団子が顔を見ずに問いかけてくる。
「なに?」
「前に……あんた、私にキスしたこと、あるんじゃない?」
「え?」
胸元に顔を寄せていたからもともと早かった心音がさらに早く動いている事に気づいたであろう彼女がガバッとこっちに顔を向けてきた。
「やっぱり!! だって、この感触、前もどこかで感じたことある気がしたんだもん!! さすがに、き、キスだよ?! 他の誰かと間違えたりするわけないもん!!」
「……………勘違いじゃねーの?」
「なにそれ、すーっごい間があった!! 怪しい!」
かーっと俺自身の顔も赤くなるのを感じてどうにも取り繕えず、もう一度彼女にキスをした。今度は少し、深いキス。
「いいだろ。これからは俺としかしないんだし」
「は、はあーーっ?!」
「ほら、ドア開いたし。行くぞ」
「ま、まま待ちなさいよーーっ」
スッと立ち上がってサクサク前に進む俺。それを遅れて立ち上がろうとした彼女は小さく悲鳴を上げた。
「どうした!?」
急いでもといた場所に戻ると、嬉しいような悔しいような、怒っているような表情を浮かべたお団子が言う内容に、思わず盛大ににやけてしまいそうになる顔を手で覆う羽目になる。
「き、キスが…よすぎて、こ、腰……ぬけちゃった……かも」
おわり
2023.4.26
キスしても出られない部屋。
数分前。泣いている彼女にハンカチを手渡すと、大人しく受け取って涙をすんすん拭く様子を見て安堵した。だというのに。
「女の子に、ハンカチすぐ渡せるとか……やっぱしキザなやつぅ」
いくらか落ち着いたお団子がそんな事を言ってきた。
「お前こそ。男の前ですぐ泣くなんて、警戒心なさすぎなやつー」
「なにそれ?!」
「あのなぁ、俺は警告してやってるんだぞ。こんなよく分からない状況で、密室で。好きでもない男の前で隙見せるなって言ってるんだ」
「あ、あんたこそ! 好きでもない女の子に優しくなんてしないでよっ」
「そうか」
「そうよ!」
俺の思いは彼女にまるで伝わってない事実。自業自得のくせして一丁前に傷つくなよな俺。馬鹿みたいだ。
けれど、こんな風に頭の中も心の中もぐるぐる掻き乱されて、俺がいつもの俺らしくなくなっちまうのはこの子の前だけなんだよ。
「俺は、誰にでも優しくするわけじゃない」
本当は、一番に優しくしたい。他の誰よりも守りたい。……一緒にいたい。そう思えるのは、お前だけなんだ。
「……え?」
紅に染まる頬はなぜだか美味しそうに見えて。包みたいのに噛み付きたくなるような全く違う衝動を生んで。
潤んだ瞳は朝のカーテンを開いた先にある初夏の空みたいなのにこぼれ落ちる雫はどこか夜の香りを感じて。
彼女の全て、一つ一つが、その先にある行動を促していく。
キス、したい
「うさぎ、そーいう顔、他の男にも見せてるの?」
「そ、そういう顔って……」
思わず頬を指先でほんの少しだけ触ると、びくんと体を跳ねさせてから、更に瞳に光を集めて俺のことを見つめてきた。
だめだ、無理。キスしたい
「し、しないもん! だってこれは、胸が勝手にドキドキして……っ! もうっなんで、あんたにだけこんな……っっ」
可愛く必死に、もうどうしたって『可愛い』でしかないことを色々言ってる小さな唇。その小さな顎をくいっと持ち上げてこっちに向かせると、同時に。俺の唇を彼女のそれと重ねた。
ぴくんと一度強張った唇は、更に肩を抱き寄せてキスをやめない俺に心を解いたように次第に柔らかく吸い付いていき、開いた目も瞼を震わせながら静かに閉じられていった。
その閉じられた瞳とは反対に、この部屋のドアが開いても、しばらく彼女を離すことができずにいた。
「ねえ、変なこと聞いていい?」
キスのあと。シャツの胸元にきゅっとしがみついたお団子が顔を見ずに問いかけてくる。
「なに?」
「前に……あんた、私にキスしたこと、あるんじゃない?」
「え?」
胸元に顔を寄せていたからもともと早かった心音がさらに早く動いている事に気づいたであろう彼女がガバッとこっちに顔を向けてきた。
「やっぱり!! だって、この感触、前もどこかで感じたことある気がしたんだもん!! さすがに、き、キスだよ?! 他の誰かと間違えたりするわけないもん!!」
「……………勘違いじゃねーの?」
「なにそれ、すーっごい間があった!! 怪しい!」
かーっと俺自身の顔も赤くなるのを感じてどうにも取り繕えず、もう一度彼女にキスをした。今度は少し、深いキス。
「いいだろ。これからは俺としかしないんだし」
「は、はあーーっ?!」
「ほら、ドア開いたし。行くぞ」
「ま、まま待ちなさいよーーっ」
スッと立ち上がってサクサク前に進む俺。それを遅れて立ち上がろうとした彼女は小さく悲鳴を上げた。
「どうした!?」
急いでもといた場所に戻ると、嬉しいような悔しいような、怒っているような表情を浮かべたお団子が言う内容に、思わず盛大ににやけてしまいそうになる顔を手で覆う羽目になる。
「き、キスが…よすぎて、こ、腰……ぬけちゃった……かも」
おわり
2023.4.26
キスしても出られない部屋。
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