レグルスの鼓動

「ほら、欲しいもの選びなよ」
 
 バッグで超有名なハイブランドのお店の中に私たちはいた。そして、シルエットが綺麗でどれも洗練されたかっこいいお洋服の前で遠藤さんがそう言って笑っている。
 
 あれから、本屋さんのすぐ近くの道を曲がると、高級ブランド店が立ち並ぶ坂道に手を引かれて連れて行かれた。そしてこのお店の前までくると、何のためらいもなく「入ろう」と促してくる遠藤さんに当然ストップをかけたの。
 だって、ショーウィンドウを見た時点で、絶対中高生のお買い物場所じゃないって分かったし、「無理無理! 私には大人っぽいから!」と断った。
 なのに、「へーきだよ。今日の服がすごく似合ってるし、絶対この店のも似合うから」と言われて。気付けば店内に押し込められていたの。ほんと、ごーいん。

「いや、でも遠藤さんそのお金はどこから?! まもちゃんのなら勝手にこーんな大金使っちゃダメでしょっ?!」
「お客様、どうなさいました?」
 私が大声を上げたから、困った顔して店員さんが近付いて言ってきた。
 なるちゃんちを抜きにしたらこんな高級なお店、中学生の私はとーぜん入るのは初めてで。でも、マナーとか何も分かってないにしても、お店中に響き渡る声を出しちゃった事はやっぱりお行儀悪かったよね。反省。
 
 謝ろうと口を開いた時だった。

「どうもしない。下がっててくれないか」
「……はい、分かりました」
 遠藤さんが店員のお姉さんを見つめると、キラッと何かが光って一瞬お姉さんの動きが止まる。そして、ぼーっとした目でそう返事をすると奥の方へと引っ込んでしまった。

「ちょ、今あなた何かしたでしょ! ダメよ変な力使っちゃ」
 声を下げて叱るけれど、本人は涼しい顔してとんでもないことを言った。
「『デート』の邪魔だ。排除しなかっただけ俺を褒めろよ」
「ばか!」
「怒ってばかりだな」
 つんっとおでこを指でつっつかれる。やだ。急にまもちゃんみたいなこと、しないでよ。
 俯いて涙が出そうになってる私にお構いなしに服を選んでいく遠藤さんはなんでもないように話し続ける。
「金は衛のだよ。あいつ、なぜか無駄に持ってるんだから、衛にとってもだーいすきな女の子にプレゼントするくらいいーだろ。責められるどころか、むしろお釣りがくるね」
 ニッと笑う彼は無駄に顔が良すぎて、涙は引っこんだけれどどっと疲れがわいてくる。
「はーもう…あったま痛い……」
 ここのお洋服、値段が2ケタは違うんだもの。

「ほらこれとかいいんじゃないか?」
 突然。金ピカのトップスと七色に光るクロコダイルのパンツを差し出されてギョッとしたけれど、あまりにも派手すぎて笑ってしまった。
「ぷ……っごめ、さすがにそれは私には着こなせないよ、あは、はははっ」
「じょーだんだよ」
「えー? もお、遠藤さんも冗談とか言うんだ? ふふっ」
「うさぎちゃんには、これ」
 目元が優しくなったような彼に次に渡されたのは黒のワンピース。胸元と袖口が黒のスパンコールで、それ以外は手触りのいいウール生地のスケータードレスだった。肩のゴールドのメタルパーツもおしゃれで、思わず…

「かわいい」

 言ってしまった。すると、肩をぐいっと抱かれて「じゃあ試着してみようね」と上機嫌な声が真上から降ってくる。
 え、うん、それはいいとして、えーと。だから!!

「なんでえんどーさんも中にまで入ってくるの?!」

 店員さんはさっきの遠藤さんの変な術のせいで全然こっちにくる気配がない。というか他のお客さんの気配すらない。このフィッティングルームの周りに結界でも張られてるんじゃないかと思うくらい静かだ。

「それは当然、手伝うためだよ」
「なっ」
 ブラウスのリボンをしゅるっと解かれて鏡越しに目が合う。

「ほら、脱いで?」
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