レグルスの鼓動
十番街から少し離れた大人の街に着いたあたしは、キョロキョロ辺りを見回す。やっぱり遅刻しちゃったよ。
オシャレなカフェが一緒になった有名な本屋さんの前。ここがあのヒトが指定した待ち合わせ場所だった。
ふと、背後から長い腕が伸びてくると思ったらギュッと腰を抱かれて身体中の熱がぶわっと顔に集まった。
「おまたせ」
「え、えんどーさ……」
「前から思ってたけどうさぎちゃんて腰細いよね。すぐ折れそー」
ぐっとさらに引き寄せられる。もう! ここいっぱい人がいるのに。視線が痛いよぉ。てゆーか、くすくす耳元で笑うのやめてほしい。胸がもじょもじょする。
そもそもなんでいっつも距離感ないの?! ぱーそなるすぺーす?? とか、そーゆーのこのヒトの頭の中にないのかしらっ!
「うわ。心臓の音すげ。うさぎちゃんドキドキしすぎ」
「違うから!!」
笑って力が抜けてる彼の腕をぶんっと振り解いて振り向くと、大好きなヒトの顔をした全然違う男の人の表情がそこにあった。黒のジャケットに長い白のストール。サングラスを外した瞳は深い藍色。
うん、間違いなく遠藤さんだ。
赤くなった顔を隠せないでいるのに、まもちゃんではないことに心のどこかでガッカリしてしまう。やっぱり私はずるい。こんなんじゃ、まもちゃんの体を借りてる遠藤さんのことも受け入れるっていう言葉がウソになっちゃう。
「衛のこと考えてる?」
「うん」
ざわっと黒い感情が剥き出しになる遠藤さんだけど、私は怯まない。
「まもちゃんと、あなたのことを考えてる」
「ふーん」
「ごめんね。けど、これが私なの。あなただけでいっぱいになる事はこの先もきっと、ないわ」
「落としがいのある言葉をどーも」
ふふんとなぜか自信満々に答える遠藤さん。
私のことばちゃんと聞いてる? ちょーしくるうなぁ……。
「それと、外でやたらとひっつくのやめて!」
「部屋ならいいの?」
「そーゆーわけじゃなくって!」
「怒らないでようさぎちゃん。せっかく可愛いカッコしてんのに」
「え?」
「メイクも似合ってる」
「そ、そう?」
真剣な顔で突然褒められて、どうしていいか分からずにぱっと目をそらして言うと、手を握られてグンと引かれる。
「わわっ」
こけそうになる私のことをくすくす笑って遠藤さんは言った。
「手繋ぐくらいはいいでしょ? デートなんだから」
見上げた横顔はやっぱりまもちゃんとそっくりで。結局心臓のドキドキは加速する一方だった。
つづく
オシャレなカフェが一緒になった有名な本屋さんの前。ここがあのヒトが指定した待ち合わせ場所だった。
ふと、背後から長い腕が伸びてくると思ったらギュッと腰を抱かれて身体中の熱がぶわっと顔に集まった。
「おまたせ」
「え、えんどーさ……」
「前から思ってたけどうさぎちゃんて腰細いよね。すぐ折れそー」
ぐっとさらに引き寄せられる。もう! ここいっぱい人がいるのに。視線が痛いよぉ。てゆーか、くすくす耳元で笑うのやめてほしい。胸がもじょもじょする。
そもそもなんでいっつも距離感ないの?! ぱーそなるすぺーす?? とか、そーゆーのこのヒトの頭の中にないのかしらっ!
「うわ。心臓の音すげ。うさぎちゃんドキドキしすぎ」
「違うから!!」
笑って力が抜けてる彼の腕をぶんっと振り解いて振り向くと、大好きなヒトの顔をした全然違う男の人の表情がそこにあった。黒のジャケットに長い白のストール。サングラスを外した瞳は深い藍色。
うん、間違いなく遠藤さんだ。
赤くなった顔を隠せないでいるのに、まもちゃんではないことに心のどこかでガッカリしてしまう。やっぱり私はずるい。こんなんじゃ、まもちゃんの体を借りてる遠藤さんのことも受け入れるっていう言葉がウソになっちゃう。
「衛のこと考えてる?」
「うん」
ざわっと黒い感情が剥き出しになる遠藤さんだけど、私は怯まない。
「まもちゃんと、あなたのことを考えてる」
「ふーん」
「ごめんね。けど、これが私なの。あなただけでいっぱいになる事はこの先もきっと、ないわ」
「落としがいのある言葉をどーも」
ふふんとなぜか自信満々に答える遠藤さん。
私のことばちゃんと聞いてる? ちょーしくるうなぁ……。
「それと、外でやたらとひっつくのやめて!」
「部屋ならいいの?」
「そーゆーわけじゃなくって!」
「怒らないでようさぎちゃん。せっかく可愛いカッコしてんのに」
「え?」
「メイクも似合ってる」
「そ、そう?」
真剣な顔で突然褒められて、どうしていいか分からずにぱっと目をそらして言うと、手を握られてグンと引かれる。
「わわっ」
こけそうになる私のことをくすくす笑って遠藤さんは言った。
「手繋ぐくらいはいいでしょ? デートなんだから」
見上げた横顔はやっぱりまもちゃんとそっくりで。結局心臓のドキドキは加速する一方だった。
つづく