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「篠塚さん、パパはどこの病院に?」

 助手席に座るうさぎはハンドルを握る篠塚に問いかける。

「もうすぐだよ。」

「っきゃ…っ!」

 篠塚は信号が青になった瞬間、突然アクセルを踏んでスピードを上げ、後続車両との差を引き離す。しかも覆面パトカーとしても使用している車両のため先ほど取り付けたサイレンを点けて他の車を端に寄せさせ追跡を阻むかのように走り抜けていく。

「し、篠塚さん、そこまでしなくても…っ」

「いや。君のためだよ。…うさぎ。」

 そうして篠塚の口端が上がる。端正な顔が初めて歪む瞬間だった。

「え…」


――――――


「ダメだ晃っ相手は素人じゃない!警察の権限利用されて撒かれたっ!完全にあいつがストーカー犯だよ!」

追跡していたまことはメットを悔しげに地面に叩き落して晃に通信する。

『OKまこと全部こっちから見えてる。あとは俺達に任せろ。お前は衛たちと合流するんだ。』

 上空。特殊部隊専用のヘリに乗った晃は通信を終えて精鋭に指揮する。



 これよりも少し前に、彼は衛にも連絡を入れていた。衛は人気の無い場所に移動しその報告内容に思わず声を上げた。

「衛すまない。変態野郎は警察内部にいた。俺達の作戦を聞きつけて一人突然単独行動を起こした奴がいるんだ。」

「警察官が犯人…!?」



 その警察官がストーカーに至るまでの動機がまだ分からない衛はしかし思っていたよりも相手が手強い存在だと悟りすぐに大学を出る準備を始めていた。

 それから数分後、レイからの通信が入る。

 その内容はこうだ。

 篠塚の父、敬造が部下である月野謙之に息子とうさぎを是非会わせたいと頼んだことから始まった。

 敬造は、恋人もいない殺伐とした職業についている息子を心配し、上司としても気に入っている謙之に娘うさぎとの縁談を持ちかけたのだった。うさぎが結婚していることはあまり公にしていなかったため当然敬造も知らない。だから謙之は角が立たないように断った。

 しかし涼介が会いたがっている、食事をするだけでもいいからという敬造に、上司にそこまで言わせて断りきれない謙之は食事だけならと了承したのである。

 うさぎも戸惑いこそすれ、困り果てた父親のことも放っておけず食事をして話が収まるのならと協力したのだった。

「しかし篠塚さんのご子息がえらくうさぎのことを気に入ってしまってね…」

 言いづらそうに謙之はレイにそう零したという。

「それで、うさぎと彼の二人にして話をさせたんだ。僕は、うさぎに結婚していることも伝えて良いからと事前に言っておいた。嘘をつくべきではないし、本当のことは早いうちに話さなくてはいけない。
でも…本当のことをもっと初めに話さなければいけないのは僕だったのに…うさぎには嫌な役をさせてしまった。不甲斐ない父親だよ。
上司にはっきりイエスノー言えないなんてね。」

 そのとき、うさぎは篠塚に衛と結婚している事実を話し、交際はできないとはっきりと断ったという。

「篠塚さん、ちゃんと分かってくれたわ。お父さんにも彼がうまく話してくれるって。だからパパももうそんな顔しなーい!」

 後悔と謝罪の言葉を帰宅してからずっとうさぎに言い続けていた謙之に彼女はそう言って微笑んだ。親が言うのもなんだけど、うさぎは本当にいい子だよ。僕に似なくて良かった…と謙之は弱った顔をしてレイに告げたそうだ。

 そこで点と点が線で繋がった。

 篠塚はうさぎのことを諦めてなどいなかったのだ。むしろ、食事会という場に来て自分に気を持たせたくせに、結婚しているからとあっさりと交際を断った。それが篠塚のプライドを傷つけ、逆鱗に触れたのだろう。

 彼は手に入れられなかったうさぎに固執し、ストーカー行為に及んだのだ。

 衛は全てを理解すると欠席届を教授のディスクに叩きつけて車のキーを持ち、止めるゼミ仲間の声もすり抜けて駐車場へ走っていった。


 一方レイも何故占いの結果に謙之が浮かび上がったのか全てを聞いた上で理解した。
うさぎとストーカー犯を結びつける人物、キーパーソンが謙之であったのだ。
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