2
「おはよううさ。朝食用意しておいたぞ。」
「おはよ…まもちゃん、ごめんね。」
「いいよ。それより、大学行けるか?」
「うん。一人で家にいるよりもそのほうがいい。それに、昨日はまもちゃんにいっぱい元気をもらったから平気だよ。」
衛はその言葉に頷き、うさぎにそっとキスを落とす。衛も家よりは大勢の人間が集まる大学にいてくれたほうが、彼女の仲間達もいるし安心が出来た。
昨晩、不安と恐怖で参っていたうさぎのことを彼は優しく包むように抱いた。温もりを分け与え、何があっても己が守る。そのことを強く彼女の心と体に刻み、そして誓ったのだ。
うさぎは涙を零し、力いっぱい衛を抱き締め、彼の真摯な気持ちに応えた。両手では収めきれないほどの愛に包まれて―――
「美奈とまことが交代でしばらく家まで迎えに来てくれることになったから。俺も車で朝はうさと彼女たちを送ってから大学に行くことにしたよ。
帰りも俺が研究で遅くなるときは他の仲間にも一緒に帰れるように頼んだ。うさが一人にならないように俺達のうちの誰かが絶対にお前の傍にいるからな。だから安心しろ。」
「うん…!ありがとう。」
うさぎは微笑みそしてベッド脇に腰掛ける夫に素肌のまま抱きついた。
衛はハンドルを握りながら後部座席に座るうさぎを見る。朝食時に彼女を付け狙う男について何か心当たりがあるか尋ねてみた。
しかしこれと思いつく人物は無いようで、うさぎは苦しそうに首を横に振っていた。
それでもどこかで絶対に接点があるはずだ。彼女が意識していなくても勝手に向こうから思いを寄せてストーカー行為に及んでいる可能性も充分にある。やはり大学関係だろうか。彼女たちの通う短大は、四年生の大学と併設されている。同じ敷地内にも男はたくさんいた。そうなると頼みの綱は美奈子とまことである。
だがそれはもう衛が言わなくても美奈子は充分に分かっている様子で。バックミラーの衛の視線とぶつかった彼女は強い視線を返し何も言わずに頷いた。普段のおちゃらけた雰囲気は無い。こういうときの美奈子は往々にして強い。
衛は頷き返すとうさぎたちの大学へと車を走らせた。
――――――
「じゃあ俺、うさぎちゃんの周辺に特別警戒張ってくるわ。」
玄関で靴を履きながら背後にいる恋人に言う。
「晃…お前まだ新米なのにそんな権限あるのかよ。」
「じいちゃんのコネ使う。」
「上々だ。私も10人分の働きはするから。」
拳を打つまことの肩をがっちり掴んだ晃はニカリと笑った。
「頼りにしてるぜスーパー女子大生!」
南澤晃はこの春から警視庁特殊部隊SWATに所属していた。その警視総監の席には彼の祖父、南澤玄徳が就いている。初めこそ同僚には七光りと囁かれたが、晃の検挙率は常時トップクラスのため、その才能を認めざるを得ない状況を作っている。
普段の任務には全くコネを利用しないのが信条の晃だが、今回だけは特別だ。おそらくコネも財産も選りすぐりの精鋭も惜しみなく使わせてもらうつもりなのだろう。