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「で…何があった?」
野菜を洗う衛は、隣で彼が洗ったものを切っていく妻に尋ねる。
この夫婦にとって、二人がキッチンに並ぶのは珍しい光景ではない。うさぎが料理が人より不得手なこともあったが、二人で何かを作ることに小さな喜びをひっそりと感じていた彼はこうして妻のサポートをよくしていたのだ。
うさぎの料理の腕はそんな彼から見ていても着々と上がっていった。それでも「危なっかしいからな」等と何だかんだ理由を付けてはキッチンに立つ衛なのであった。
「あのね…気のせいかな、って思ったの。初めは。」
「…うん。」
「今日みたいにね、少し遅くなったときだけなんだけど…」
包丁で野菜を刻む手が止まり不安そうに小さな声で言ううさぎ。そして隣で見つめる衛のことをすっと見上げて一呼吸置く。
「誰かに……後を付けられてるみたいなの。」
「えっ!?」
実は今日のような出来事はこれが初めてではなかった。そんな気配を感じ始めたのは一ヶ月近く前。しかしいつも決まって誰もいず、その後何が起こるわけでも無い為、気のせいだと片付けていたのだ。
けれど、今日はその気配が殺気ほどに強く感じたため、流石にうさぎも何でもないことには出来なくなってしまっていた。
「あとね…見て欲しいものがあるの。」
そう言ってうさぎは一旦キッチンから離れるとリビングの戸棚を開けて白い封筒を持ってきた。
「読んでみて…?」
衛はそれを受け取る。宛名も何も無い。切手も無く住所も書かれていない。
中身を取り出す。すると、中にはパソコンで打たれた一枚の手紙が入っていた。
『うさぎへ
君の事が好きだ。愛してる
愛してる愛してる愛してる
愛しているよ。世界中の誰よりも
君の隣にいる男よりも』
この手紙が投函されていたのは昨日。そして今さっきの出来事。うさぎの顔は青褪めていて俯いたままだった。
衛はその手紙をぐしゃりと音を立てて片手で握りつぶすように持つと震える妻のことを抱きこんだ。
「うさ…!怖かったな。付けられていたことも…すまない気付いてやれなくて。」
「まもちゃん…」
「大丈夫。俺が何とかするから。」
「で…も、まもちゃんが危ないよ?」
「俺達には心強い味方が何人もいるだろ?」
―うさにこんな思いをさせた奴は俺が許さない。俺たちがこの手で捕まえてやる―
衛はうさぎのことをきつく抱き締めると、「大丈夫だ」と最愛の妻に誓いを立てるように囁いた。
瞳にはまだ見ぬ人物に鮮烈な怒りを灯しながら。