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 12月の初め。大学の講義が最後のコマまであったうさぎは、6時でももう暮れてしまった暗い道を夕飯の材料が入ったスーパーの袋を両手に持って家路を急いでいた。

 月野うさぎ、短大二年生20歳。彼女は実はあまり公にしていない秘密があった。前世に許されない恋を経験していた彼女にとってその秘密は、幸福感しか与えないものではあったが。

「まもちゃんが帰ってくるまでにちゃんと作れるかなあ…」

 一人呟く彼女だが、その表情には笑みが浮かんでいる。歩くスピードも速くなり、それがスキップのようなものに変わろうとした時だった。

「…!?」

 自分を見つめる気配を暗闇から感じ取った彼女は勢いよく振り返る。数年前までの戦士として培われた勘もあったが、何よりも不穏な気配を第六感の様な物で察知したのだ。
 しかし。振り返った先は暗闇が広がるばかりで人影ひとつ見えない。

「…気の、せい…?」
 
 それでも不安は拭い去れなくて。その後彼女は足早に家へと向かったのだった。


 マンションの鍵を開けると、もう既に照明が点されていて、見慣れた靴が玄関にきちんと並んでいた。それを見て無意識にほっとした彼女は息をついた。
「ただいま!まもちゃん?もう帰ってたの!?」

「お帰り、うさ。俺も今帰ってきたとこ。」
 
 呼びかければ彼女の最愛の人が笑顔で出迎える。しかし微妙なうさぎの変化を見抜いた彼はスーパーの袋を持ってやりながら尋ねた。

「うさ?何かあったか?」

「え?」

「息切らしてるし…顔色も悪いぞ?」

「あ…えっと、早く夕飯作りたくて走ってきただけだよ!」

 うさぎは心配そうな彼の様子を払拭するように笑顔で答える。

「うさ。」

 しかし長年の付き合いである上に、うさぎのことを誰よりもよく見ている彼にはそんな彼女の嘘もすぐに見通してしまっていて。声音を変えて呼び、彼女を真っ直ぐに見つめて頬に手を添える。

「ごめん…とりあえず、リビング行かせて?」

 観念したように弱々しく微笑んだうさぎはその手をそっと握って言う。

「よし、手洗いとうがいも忘れるなよ?まあうさは大丈夫だとは思うけど、風邪も流行ってるしな。」

 頭を撫でながらの言葉にうさぎは膨れる。

「もー!心配してるのしてないの!?」

「もちろん、心配してるよ。大事な奥さんだからな。」

 にっこり微笑まれてのその返答に真っ赤になったうさぎは洗面所へと駆け込んだ。

 彼女を奥さんと呼ぶ彼の名は地場衛。その実、衛はうさぎの正式な夫だ。大学五年生で医学の道に進む彼は、この年のうさぎの二十歳の誕生日である6月30日に入籍し、二人は晴れて夫婦となった。だから月野は旧姓。うさぎの今の本当の名前は地場うさぎなのである。

 しかしまだ学生であることから、あまり公にしていない。うさぎの家族、そして二人のごく内輪の友人達しかその事実を知る者はいなかった。

 これがうさぎと衛の二人の秘密であった。
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