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『アイドルなんて』(ゾイ亜美)
「ちょっと、何読んでんのよ。」
「音楽雑誌です。」
部屋に戻ってきたら亜美がソファーに座って珍しく参考書や本ではないものを読んでいて瞠目する。私は彼女との距離をあっという間に詰めて座り、軽く睨んだ。
「違うでしょ。これ、アイドル雑誌じゃない。」
世間で圧倒的に人気のスリーライツが表紙のそれはおよそ亜美の趣味とは思えない。ミーハーの金色頭の二人のどちらかに借りたのだろう。そうに決まってる。
「でも、アイドルと言ってもこの人たちの音楽性はとても高いんですよ?」
「何それ、馬鹿娘の受け売り?この雑誌もあの子に借りたの?」
亜美から取り上げて、読んでいたページに憮然としたまま目を落とす。
「いいえ、私が買ったんです!」
奪い返した亜美の言葉に返事が詰まる。それを見た彼女は溜め息を一つ付いて眼鏡を外した。
「そうやって馬鹿にしますけど、メンバーの大気さんがプロデュースも兼ねていて星野君の書く詩を最大限に生かす曲をいつも作っているんです。そこに夜天君のアレンジも加わって…三人のバランスが絶妙なんですよ?聴いていてそれがとても心地良いの。」
そんな風に嬉しそうに微笑まないでよ。
私が音楽に携わっているからって、そういう話をすれば私も喜ぶと思ったら大間違いなんだから。
「じゃあ、早く家に帰ってそのCDでも聴いたら?」
「何でそういう風に言うんですかっ」
私だって言いたくは無いわよ。亜美じゃない他の誰かからその話を聞いたら別にここまでムカムカしない。もしかしたら自分も聴いてみようかしら、なんて思ったかもしれない。
怒る彼女に背を向けて立ち上がり窓辺に行き、表情を見られないように答える。
「音楽の趣味は自由だもの。亜美が一番いいと思ったものを聴けばいいと、思っただけ。」
顔が見れないなんて臆病者。
嘘つき。
些細なことに嫉妬して本当に馬鹿。
背中に静かな、でも何かを孕んだ沈黙が痛い。
耐え切れず振り返ると予想外に真っ赤な顔をした亜美が俯いてじっとしていた。
「…亜美?」
「じゃあ…帰りません。」
「え?」
「は、早くピアノ、弾いてください…!!」
そう言われて嬉しいくせに未だに手にしている雑誌の中の彼らに対してのちりちりした思いも消えていた訳じゃなかったから、やっぱり目を逸らしてしまって。
「別に、無理しなくても。」
出た言葉はどこまでも素直じゃない台詞。
「…っ!だから!どうしてそういう風に言うんですか!!私は…っ!あなたと似てるなと思ったのっ」
「似てる…?」
「西園寺さんとスリーライツの音楽性が、ジャンルは違うのに似てるって思ったんです。だから私は…!!」
亜美はそれきり黙って更に真っ赤になってしまった。
それって、つまりは。
私が知らないところでも私のことを考えていて、たまたま聴いた曲にも私の音楽との共通点を探してしまうくらいには思っていてくれているって、そういうこと?
「私のピアノが一番って事でいいのかしら?」
再び近付いた私の気配に僅かに身を震わせて見つめてくる。その顔を見て言い様の無い甘い波に攫われそうになる。
「分かってるくせに聞かないで下さい…!」
「分からないよ。私は亜美じゃないんだから。」
隣に座り肩を抱く。
「ねえ、じゃあ、亜美の一番は、誰?」
顎を持って問えば今度は目に見えて分かるほどびくっと体を揺らす彼女。そんな風に煽って、狡い子ね亜美は。
「……っ知りません…!!」
そう言いながらも私の手をぎゅうっと握ってくる亜美の手は熱くて。
それを私に対する想いの温度に思えたから、とりあえずはこれで許してあげることにする。
重なった唇。想いを言葉にするのが苦手な私達の距離をゼロに
テーブルに置いたままの雑誌の表紙の中から見つめる三人を裏にして
あとは、二人だけの音楽を――――