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『帳(とばり)』(クン美奈)




行為の後何となく寝付けなくて寝返りを数回打つと背後から彼の腕が伸びてきて腰周りをやんわり抱き締められた。

「なに…?」

「いや、眠れないのか?」

掠れた声。ついさっきまでの情景が蘇ってきそうで赤くなる顔を自覚しながら目を瞑る。

「…寝るわよっ!賢人こそ寝ないの?」

私の問い掛けに耳元に笑みを含んだ吐息が掛かる。

そして抱き締める力が強くなりこめかみに唇を落とされた。

きゅんとお腹の奥が甘く疼く。そんな私の頭をゆっくりと確かめるように撫でてくる。

心地よくて、本当に眠ってしまいそう。




賢人は、した後いつも優しい。

大事にされてる。愛されてる。

そういうことが私を触れる手や眼差し…言葉はなくてもそれら一つ一つからすごく伝わってくるから、どうしようもなく賢人でいっぱいになってしまう。

そして私は―――

「ねえ」

「なんだ?」

「もう、変なことしないって誓う?」

「どういう、…!」

ぐるりと反転させて賢人の胸に顔を埋めると、彼は少しの間手を宙にさ迷わせて、大きな溜め息を溢しながら私のことを抱え込んだ。


「こっちの方が、いい。」

そして私は、した後はいつも少しだけ素直になれる。

「…そうか。」

「ねえ。」

「なんだ。」

「髪、撫でて?」

答える代わりに大きな手が優しく優しく髪を撫でていく。

「…きもちいぃ…」

ほっとして。まどろんで。吐息混じりに出た言葉。

もう少しで夢の中だったのに、賢人は急に手を止めた。

そしてその手は私の顎を捕らえて上向かせる。

驚いて賢人を見つめれば、切ないような苦しいような。あんまり普段は見られない余裕の無い顔が間近にあって。

胸の中が痛いくらいに甘く掻き乱された瞬間。深いキスが降ってきた。


「ん…っも、もう!変なことしないって…」

「俺は言ってない。誓いを立てる前に抱き付いてきたのは美奈子だ。」

「う…っ」

「それにこんな風に甘えてくる恋人になにもしないでいる男は、馬鹿だ。」

囁いた言葉はいつも通りの上から目線で理屈っぽいのに、その声や雰囲気がそこはかとなく甘くて。


「馬鹿!!」

「なんでそうなる。」

全く理解できないという表情で眉間にシワを寄せる賢人を睨む。けれどたった今頭も体も甘く痺れさせられてしまった私はきっと全然迫力なんて無かったと思う。

「…なんでもよ!!」

「…全く。今夜の美奈子は…」


え?今なんて言ったの?

それ、ホント?


だけど聞き返すのも恥ずかしくて、私は再び切なくて燃えるような瞳を宿した彼の熱にもう一度身を任せていった。




―全く。今夜の美奈子は可愛くて困る―
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