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『夏ですから』(ゾイ亜美)
青い海、白い砂浜。仲間たちは夏を大いに満喫していた。
いつもの五人、そして衛、瑛二、自分の八人は夏休みに海に訪れている。
弁護士志望の賢人は近頃騒がれている刑事裁判の傍聴券が当たったとかで美奈子に膨れ面で『くそ真面目のロクデナシー!』なんて言われながらも涼しい顔で行ってしまったし、晃は世話になっている教授の学会の補佐に泣く泣くかり出されていった。
まことの水着姿を絶対撮って来いとか言われたけど、信じられないほどいいカメラを事前に手渡されたけど。
あの大男の頼みなんていちいち聞いてなんかいられないわ。私だってこの場にいながら彼女の水着姿を拝めていないっていうのに。ホント、腹立つ。
で…あ。そうそう。瑛二は完全にレイのパシリ。日光浴をしているレイの横でトロピカルジュースだの、サンオイルだの。とにかくもう想像通りの時間を二人で過ごしちゃってるってわけ。パシリっていうより下僕ねあれじゃ。でも瑛二は誇りを持って下僕業を全うしてる。
衛とうさぎ、美奈子とまことはビーチバレーをこの暑さだっていうのに暑苦しいくらい本気モードで対戦してて。
うさの敵は俺が討つ!!とか衛までキャラじゃない感じで美奈子に宣戦布告して二人の一騎打ち。(というかバレーで一騎打ちって何それ?ルール上不可能じゃない?)
横で顔面に激しくボールを食らった月のお姫さんは終始伸びてて、亜美も看病に行くのかと思ったら、くすくす楽しそうに笑ってておしまい。
きっと学校じゃよくあることなのだろう。
別に私はうさぎに同情するような関係じゃないからさほどそれには突っ込まないでいたわよ。
さて。うさぎが復活した頃には衛と美奈子はイーブンでお互いくたくたになってて(アホ過ぎでしょ)、暑い!!とか美奈子が叫んだのが合図。ビーチバレー組は皆して海に飛び込んでいった。
そして私と亜美は、海に来て開始からずっと動かずにパラソルの下。
亜美は水着の上にパーカーをしっかり着込んでいて、まるで決まりきったかのようにその手には英語の参考書。
私はそんな亜美の横で特に何もするわけでもなく、海パンに羽織っただけのサーモンピンクの下地で抑え目の柄のアロハシャツにサングラスといった格好で仲間の様子を眺めていた。
「ねえ亜美。」
「はい?」
「あなた海に何しに来たの?」
私が海を見たまま尋ねれば、同じく参考書から目を離さずに彼女は口を開いた。
「お友達との有意義な時間を過ごすためです。」
「じゃ、その参考書は何。」
「ちょっとこの構文だけは覚えておきたくて。」
「そう。それってあとどれくらいで終わるわけ?」
「一時間ほどで。」
「ちょっと、それ本一冊丸暗記コースじゃない!!」
「いけませんか?」
そこで初めてお互いの視線がぶつかり合う。
「………ま、いいけど。」
「西園寺さんこそ。」
「え?」
「さっきからずっとそこで座ってますけど、何してるんですか?」
本当にまるで何も分かってない風に聞いてくる恋人にいらっと頭に来てしまう。
私は海水浴なんて片手で数えても寂しいくらいに来たことがない。
でも以前、うさぎに亜美は泳ぐのがとても上手だということが聞いたことがある。まるで魚のようなフォームで泳ぐのだと。
それを見たいと思ったし、普段見たことが無い水着の亜美が是非見たいと思ったこともここに来た理由だ。
私も男ですから。別にそこはあえて否定しないわよ。
とにかく、何も無い休日に恋人と一緒にいたいと思うのは普通のことよね?
それを…何してるんですか?ですって!?
馬鹿じゃないのあなた!!
「さあ。人間観察よ。演奏の音に膨らみを持たせるための日々の鍛錬ってやつかしら。」
って、私も何すかして言っちゃてるのよ。ああもう死にたい。
「はあ、そうですか。」
そんな態度に出てしまったものだから亜美は気の無い返事をした後再び勉強脳に戻ってしまった。
「でも…」
何とも耐え難い沈黙を破ったのは彼女で、その手が急に顔に伸びてきて身構える。
「それならサングラスは取ったほうがよく見えるんじゃないですか?」
突然彼女にサングラスを外されて、呆けている私にふっと柔らかく微笑んできた。
何ていうかもう…ホント、馬鹿じゃないのあなた。
「見ない。」
「え?」
負けてばかりじゃ気が済まない私は、参考書を取り上げて互いの顔の前にやると、無防備な彼女の頬に唇を寄せた。
「他の人間なんて見ない。興味ないから。」
「…!!」
ゆでだこ状態で頬を手で押さえている恋人に大変満足した私は口端を上げて微笑んだ。
「ほら泳ぐわよ!」
このままここでどうこうし出しかねない自分を律するかのように、似合わない明るい声を出して亜美の腕をぐいと引いて立たせる。
「え!西園寺さんかなづちなんじゃ…!?」
さっきの怪しい雰囲気が無くなったことに安心したのか亜美も少し声を上げる。
「失礼ね!五メートルは泳げるわよ!」
「それを一般的にはかなづちって言うんです!」
赤い顔のまま、随分と言ってくれるじゃない。
「いいから!ほら行くよ。」
分が悪くなりそうでそう言って一気にシャツを脱ぎ捨てると、亜美もようやくパーカーに手を掛けた。
白地に水色のチェックのビキニは、下が短いフレアスカートのようになっていてシンプルだけど可愛いデザインは思いっきり私のストライクゾーン。
夏の暑さはいつまで経っても苦手だわ。ちょっとパラソルから出ただけでこんなにふらつくもの。
別に、亜美の水着姿を見たからじゃないわよ。
そこは絶対に違うんですからね。