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『憧れのセンパイ』(まもうさ・浅沼視点)




あ、衛先輩だ。



放課後、俺はとある人と待ち合わせをしていてパーラークラウンにいたのだが、その席から少し離れたところに衛先輩が座るのが見えた。



彼女と一緒だ。


頭脳明晰、スポーツ万能、おまけに俺ら後輩にもすごく良くしてくれる先輩は、きっと彼女も知的美人で大人っぽい人なのだろうと勝手に思っていた。

でも衛先輩の彼女、月野うさぎさんはそのどれにも当て嵌まらなくて。うさぎさんには失礼な感想だけど初めて見たときはちょっと意外だった。


あ、衛先輩笑ってる。


俺の位置からだとちょうど衛先輩の顔しか見えなくて、うさぎさんの姿は店内の背の高い観葉植物の植木に隠れてしまっている。

「うっわあ!おいしそ~~!!」

どうやら運ばれてきたケーキセットを見てうさぎさんが感嘆の声を上げているようだ。

それを衛先輩はとても嬉しそうに眺めていた。

「うさこは本当に甘いものが好きだよな。」

「まもちゃんだってチョコ好きでしょ~?」

「ああ、まあな。」



意外だった。衛先輩、チョコが好きなんだ。

言われてみれば、衛先輩の前にもコーヒーとチョコレートケーキが置かれていた。

「おいおいそんなに急いで食べなくてもケーキは逃げていかないぞ?」

「だって~おいひいんらもん!」

うさぎさんのその言い方で察するに、相当頬張って食べているらしい。

「ほら、クリーム付いてる。」

「へ?」

俺はその後の衛先輩の行動に不意を付かれて赤面した。


すっとうさぎさんの口元に手を差し出して、親指で掬い取ったクリームを何でもない顔をしてぺろっと舐める。

そして何だかもう見てられないほどのあまーい表情で彼女のことを見つめ微笑んでいた。


その一連の動作はあっという間でとても自然で。でもテーブルに載っているケーキよりもずっと甘くて。


俺は堪らず視線を元に戻してしまった。



ま、衛先輩!?あなた、今自分がどんな顔してるのか分かってますか!?

男の俺がこんなにドキドキするのなんてどう考えても可笑しいのに、その表情ははっきりいってそれだけの殺傷能力はありますよ!!!



「へへっありがと♪まもちゃんもケーキ早く食べなよ~!」

しかし彼女であるうさぎさんは慣れているのかのほほんとそう切り返すだけで、彼らが二人きりのときはこれ以上甘いことが繰り広げられているのかと考えると、心拍数が上がり頭痛さえしてきた。

「うん。じゃあ今度はこっちに付いてるのを貰おうかな。」

反射的に彼らをもう一度見て、激しく後悔する。




のーーーーーわーーーーーー!!!!!





見てしまった。



今度は直接うさぎさんの頬に口を寄せてクリームを舐め取る憧れのクールなエリート(のはずだった)衛先輩を。




分かりました。よく分かりました。

衛先輩は彼女のことが好きで好きで堪らないんですね分かります。



だけど、だけど!!!!


この超絶甘い空気をこれ以上吸い続けるのは無理!!俺が恥ずか死ぬから!!



「浅沼ちゃん?どうしたんだ?」

「ま、まこと先輩~遅いですよーーっ」

漸く待ち人が現れて俺は縋りつく。

「なんだなんだ泣くほど私に会いたかったか。可愛いなあ浅沼ちゃんは♪」


相変わらず年下扱いで頭をワシワシ撫でてくるまこちゃん先輩の手をぐいっと引いてその場を後にする。



恥ずか死んだけど、いつか俺もまこちゃん先輩と………




そこまで考えて脳内がキャパを超えてフラリとする。




「無理だーーーー!」






突然叫んで目を見開くまこちゃん先輩が視界の隅に入って、今度こそ己の恥ずかしさでしゅうしゅうと小さく縮んでいった。
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