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雪よりも(ゾイ亜美)
図書館の時計を何気なく見て血の気が引いた。
私は慌てて参考書などを鞄に入れると珍しく音を立ててその場を去った。
司書の人の視線を痛いほど感じたけれど、それに反応するほどの余裕はどこにもなかった。
どうしよう…大遅刻だわ…!!
約束の時間はもう二時間も過ぎていた。
今日は午後から雪と天気予報で言っていた通り、街は白いものがうっすらと掛かるほど降り積もっていて、待ち合わせている筈の人物を思うと泣きそうになる。
どうして私は彼に対していつもそうなの…?
うさぎちゃんや、仲間と会うときはレイちゃんと共に一番乗りなのに。
彼がいつも私のペースになんだかんだと言いつつ合わせてくれていたから?
甘えていた?
気を許し過ぎたから?
それでもこんな雪の中二時間も待たせるなんて、私はどうしようもないくらい最低だ――――!
ようやく待ち合わせ場所の駅前に辿り着いて辺りを忙しなく見回す。
いる?
いない?
いるはずが…ない。
「西園寺さん…」
泣き出しそうになったその時。
「…遅い。」
地の底から這い出したかのような声が背後から聞こえて背筋がピッと凍り付いた。
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
振り向きざまに涙目で何度も頭を下げる私はなかなか顔を上げることができない。
「…そんなにお勉強が大事?」
「え…」
「私のこと、忘れてしまうくらい大切?」
頭の上から真剣な口調で聞こえてくるその言葉は否応なしに私の胸に突き刺さる。
自業自得とはいえ、そう言わせてしまった自分が腹立たしくて仕方がない。
「西園寺さ…」
「ちょっと、泣かないでよ。泣きたいのはこっちなんだから。」
「ごめんなさい…」
「お詫びに何かしてくれるのよね?」
「それはもちろん!!」
「じゃ、たくさん暖めて頂戴?」
悪戯っぽく言う西園寺さんは私の手を引いて足早に歩き出す。
「ちょ…それはどういう…!?」
「やだ赤くなっちゃって。亜美ったら何を想像してるの?」
「な!してません!!」
私の狼狽ぶりに満足げな彼はふっと企み顔で笑う。
こんな時は嫌な予感しかしない。たとえそれが甘さを孕んだものだとしてもだ。
「私は、大切なものは一つで充分。ほら行くよ。」
彼の言葉が終わると同時に雪の中を駆け出す私達。
でも私は、町を白く変えていく幻想的なそれよりも目の前のこの人が何を考えているのか。
そのことばかりが頭の中を占めていて、嫌味覚悟でその頬を赤く色付かせていった。