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夢・雪・華(エンセレ)
いつものように地球に降り立つと、初めて感じる冷気に肩を竦める。
月のドームの中はいつも一定の温度に保たれている為、日頃から地球での気温の変化には驚かされていた。
「それにしても…寒いわ…」
何か羽織ってくれば良かったと思うけれど、それ以上に彼に会いたいという気持ちが心を占めていたから、急いでいつもの逢瀬の場所に向かった。
彼は先に待っていて、私の姿を見るなり少しの驚きと、やっぱり…とでも言いたげな呆れた表情で出迎えた。
彼自身も普段よりは暖かそうな服に身を包んでいて、手にも厚手の毛皮のコートを持っていた。
「全く君という人は。ほら、これを着て。」
「ふふっあったかそうね。」
背後に回って袖を通してくれる彼は小さく溜め息を付いた。
「もしかしてと思ったけれど、やっぱりその格好で来るんだから。この時期にその薄着は体に毒だよ。」
「でも、あなたがちゃんとコートを用意していてくれたわ。」
「本当に良かったよ。寒くないかい?」
「ええ。とてもあったかいわ。ありがとうエンディミオン。」
微笑んで礼を言うと、彼は「いや」と返事をして大好きな優しい笑顔を向けてくれた。
するとその間に小さな白い綿のようなものがひらひらと落ちていき、私は思わず空を見る。
「何…?今の。」
「ああ、雪だよ。ほら、また降ってきた。」
「ゆき?」
「これだけ寒いとね、雨も凍って雪になってしまうんだ。」
「雪…素敵!!」
会話をしているうちにも雪は静かに量を増やしながら降ってくる。
私は掌に肩に、全身に落ちては溶けていく儚くて幻想的なそれに感動してクルクル回って雪と舞う。
「君は何にでも感動するんだね。」
決して嫌味でもなく、自分の星を褒められて嬉しそうに言う彼に私は大きく頷いた。
「だって、こんなに綺麗な物が空から落ちてくるなんて…まるで白い花びらみたい!」
「白い花か…」
私の言葉に目を細めて彼も空を見上げる。
私ももう一度空を見る。すると、額、頬、鼻先、唇にそれらは静かに舞い落ちる。
「セレニティ」
呼ばれて彼の方を向くのと同時に温かい感触が唇に落とされた。
そして彼の温かい手が冷えた頬を包み込む。
舞い落ちた白い花は彼の熱い抱擁と共に、儚く甘い夢に溶けていった。