ドクターパロ
彼女が入院患者かと思った衛は、病棟に彼女がいるか目を配らせていたがどこにもその姿を確認することができなかったし、次の日の夜は中庭には人気が無く静まり返っていたから、やはり幻だったのだろうかと腑に落ちないながらも自分に言い聞かせていた。
それに日々の仕事に忙殺されてそれどころでは無くなってしまっていたのである。
しかしある夜。いつものように残業していた衛はうたた寝をしてしまっていた目を開けた。
窓の向こうには半月の光が見えて、どこか胸が騒いだ彼は中庭へと足を運ばせた。
「あ…!」
あの日の彼女が同じ様にそこに立っていた。
今度は立ち去っては行かなかった。彼女は衛のことをじっと見つめ、ふわりと微笑む。
「この前はごめんなさい。急に逃げるように行ってしまって。…だと思ったの…」
「え?」
最後の方がよく聞こえなくて聞き返すがこちらに近づいてくる彼女が衛のことを下から覗き込んで無邪気に笑った。自身の顔が赤くなるのを自覚するも逸らせない目で彼女の言葉を待つ。
「あなた…地場先生って言うのね?」
「どうして俺の名を?」
「あの子に聞いたの。とっても優しくてカッコいい先生なんだって。それに私、昼間も病棟であなたを見かけたわ。」
「君は…」
「お母様には言わないで?」
人差し指を口元で立てて困ったような表情でそう言ってくるが、衛には何が何なのか分からなかった。とにかく彼女が一体誰なのか聞こうと思ったが、あまりにも可憐に微笑む彼女に魅入られてしまって言葉が引っ込んでしまった。
「月が綺麗に見える夜はね、ここでこうしてお祈りしてるの。めいちゃんが早く良くなりますようにって。」
「めいちゃんって…201号室の神崎芽衣ちゃんのことかい?」
少し辛そうに頷く。
「私、あの子とはちょうどひと月前に昼間にここで会ってね。仲良くなったの。でもとても重い病気だってあとから知って…」
実際そうだった。神崎芽衣は生まれつき心臓が弱く、オペと新薬両方の治療が必要だった。
まだその新薬の認可が日本では降りておらず、オペもそれを待っている状態。
そう。その時はまだ待っている状態だった。しかしその新薬の認可がようやく降りて、神崎芽衣の手術の日程も決まったのである。
衛はそのことも彼女と話したくて、満月の光の下にきっといるだろうその姿を想像し足を速めていくのだった。
それに日々の仕事に忙殺されてそれどころでは無くなってしまっていたのである。
しかしある夜。いつものように残業していた衛はうたた寝をしてしまっていた目を開けた。
窓の向こうには半月の光が見えて、どこか胸が騒いだ彼は中庭へと足を運ばせた。
「あ…!」
あの日の彼女が同じ様にそこに立っていた。
今度は立ち去っては行かなかった。彼女は衛のことをじっと見つめ、ふわりと微笑む。
「この前はごめんなさい。急に逃げるように行ってしまって。…だと思ったの…」
「え?」
最後の方がよく聞こえなくて聞き返すがこちらに近づいてくる彼女が衛のことを下から覗き込んで無邪気に笑った。自身の顔が赤くなるのを自覚するも逸らせない目で彼女の言葉を待つ。
「あなた…地場先生って言うのね?」
「どうして俺の名を?」
「あの子に聞いたの。とっても優しくてカッコいい先生なんだって。それに私、昼間も病棟であなたを見かけたわ。」
「君は…」
「お母様には言わないで?」
人差し指を口元で立てて困ったような表情でそう言ってくるが、衛には何が何なのか分からなかった。とにかく彼女が一体誰なのか聞こうと思ったが、あまりにも可憐に微笑む彼女に魅入られてしまって言葉が引っ込んでしまった。
「月が綺麗に見える夜はね、ここでこうしてお祈りしてるの。めいちゃんが早く良くなりますようにって。」
「めいちゃんって…201号室の神崎芽衣ちゃんのことかい?」
少し辛そうに頷く。
「私、あの子とはちょうどひと月前に昼間にここで会ってね。仲良くなったの。でもとても重い病気だってあとから知って…」
実際そうだった。神崎芽衣は生まれつき心臓が弱く、オペと新薬両方の治療が必要だった。
まだその新薬の認可が日本では降りておらず、オペもそれを待っている状態。
そう。その時はまだ待っている状態だった。しかしその新薬の認可がようやく降りて、神崎芽衣の手術の日程も決まったのである。
衛はそのことも彼女と話したくて、満月の光の下にきっといるだろうその姿を想像し足を速めていくのだった。