嵐の中へ(キンクイ)
夫婦の部屋でソファーに肩を寄せ合って座る二人の面差しは複雑なものだった。
長い沈黙が二人の間に横たわる。けれど互いに同じことを考えていることも分かり、隣にいる伴侶の手を確かめるように強く握った。
雷鳴、嵐、雲が開けたと思えば突然の奇妙な三つの虹。不安定な天候はそのまま歴史の歪みや世界のバランスが変わる事を暗示している。
そしてプルートとの会話を娘に聞かれてしまったクイーンは、自分と愛する夫にとてもよく似た我が子が今何を感じ、思っているのか手に取るように分かって目を伏せた。
「あの子は過去に行きたいってきっと言うわ」
「そうだな」
短く息を吐き出すようにキングは答える。
彼は己の体内のクリスタルが自分から離れていくような気配に焦燥感を抱いていた。過去の自分に何かが起こった。命を脅かす何かが。けれど妻にはそれを打ち明けるつもりはない。
自分の体がたとえ滅んだとしても最後の一雫まで彼女のために在りたい。愛する唯一の女性に自分ができることなど限られているから。
我儘だと言われようが、それが彼の変わらぬ願いなのだ。
「なあうさ、今はあの時代にいる彼女たちを信じよう」
「まもちゃん……」
繋いだ手からはずっと昔から変わらない彼の温かなエナジーを感じる。しかし見上げると泣き出しそうな夫の表情が眼前に広がって、クイーンの胸の奥がツキンと痛んだ。
「もちろんスモール・レディの事も信じているよ。だがもしかしたら……もう戻ってこられないかもしれない」
それは急激に無に帰そうとしている自身の体の変化を感じている彼だからこそ言える事実だった。
「すまない。こんな事を地球を統治する者が言うべきではないとは分かってる。あの子は先の戦いでも成長し、きっとセーラームーンと共に並べる戦力になれるはずだ。だから送り出すのは星の守護者の判断として間違っていない。けれど……予感がするんだ。今度の事態は今までとは違うと。行かせればあの子の命が……っ」
クイーンは最愛の夫を抱きしめる。
「行かせない。行かせられない……! 親のエゴだと言われようと、星を守る前にあの子を守るのもあたし達の務めだもの!!」
二人にとってたった一人の愛する我が子。どうしてそんな判断ができよう。
「うさ……」
これがもしかしたら最後の抱擁になるかもしれない。そう思ったキングは、彼女の姿、形、匂いを全て記憶するようにきつく抱き締めて己の体と心に刻み込んだ。
「スモール・レディにはあたしから話すわ」
「ああ……頼む」
夫婦はそっと微笑み合い静かに唇を重ねる。
しかしそれは束の間の安らぎを与えても、胸の奥の痛みまでは消してくれなかった。
おわり
2023.6.28