その声に(ゾイ亜美)



「ごめんなさい迷惑でしたよねこんな夜遅くに…」

「だから。私がいいって言ってるの。で、何?」

こんな夜に電話をしてくるなんて何かあったの?私、行った方がいい?

そんな本音は一つも出ずに亜美からの返事を待つ。けれどその答えに肘で支えていた上半身が再び一気にベッドに倒れこんだ。

「…あ、勉強が一区切りしたので。」

「………あー、そう。」

「どうしてるかなと思って。」

「寝てたわよ。」

「はい。そうでした。」

「…あと11時間23分後。いつもの場所に来ること。」

「は…い?」

どこか呆けている彼女に構わず話を続ける。

「私のこと、こんな遅くに起こしたんだから明日は付き合ってもらうわよ。」

「あ、でも私午前中に模試が…」

「だから11時間22分後だって言ってるの。」

時計を見て言い直す。あなた分かってるの?もう私達一週間も会ってないのよ。電話してくる度胸があるんだからそれくらい察しなさいよ。

そんなあなたの恋人がこんなに会いたい、ランチしましょうって言ってるのに。素直に受けなさいよね。(←実際は言っていない)

「分かりました。じゃあ…その時間で。」

「ん。じゃ、あなたも早く寝なさいよ?」

「はい。」


おやすみと言葉を交わした後、切れた電話の向こうで亜美がどんな顔で、どんな思いでいたかだなんて、私は知る由もなく。漸く取り付けた恋人との約束に気分良く眠りについたのだった。


☆☆☆


勉強から解放されると、いつの間にか一番初めに頭に浮かぶのは彼になっていた。そういえばもう一週間も会っていない。どうしているのだろう。

時間も碌に確認しないで電話をしてしまった。会話の間で日付はとっくに過ぎていることを気付いて切ろうとしたのに、起こされたことを嫌がる素振りも無く拒否しないでくれた彼にほっと胸を撫で下ろした。

声を聞いたらなんだかとても会いたくなって、でも、こんな時間にこんな風に思っても会えないことも充分に分かっていた。

思いつきで電話をしたから会話を広げることも出来なくて。思いつきで…なんて、私らしくないとは思うけれど。

こうなったら久し振りに聞いた気がする彼の声をもう少し聞いていたいな、なんて思っていた私はいつの間にか明日の約束をしている事態に戸惑いながらも弾む気持ちは止められなくて。

彼の、勝手そうに見えてちゃんと模試が終わった時間も考慮して誘ってくれている分かりづらい優しさに触れて頬が綻ぶ。

電源ボタンを押して小さく笑う。

ああ、明日の模試はケアレスミスに気をつけなくちゃ。


ふわふわした気持ちのままノートを閉じてシャープペンをペンケースに入れる。そんないつもの当たり前の動作をする指先も、なんだかとても軽やかに見えた。


おわり
2013年に書いたものを再掲
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