エンセレ政略結婚。

 彼女の部屋。窓際の近くにある小さな花瓶に密かに数日おきに一輪の花を差し入れていた。その窓は、中庭を挟んで向かいにある俺の部屋から小さく見えた。 夜、灯りのついた窓。彼女が眠る時間に一度何気なくその窓を見ると花に気付いてそれを手に取り嬉しそうに笑っていた。
 それは俺の心を浮き立たせるには充分で。
 俺の部屋にも挿していた同じ花を思わず手に取って、そっと花弁に口付けていた。

 一目惚れだったんだ。輿入れに君が城に入ったあの日から。
 けれど殺意と欲で渦巻いたこの王国ではそんな気持ちは気取られてはならなくて。それでもどうにか一欠片の思いを託したくて……それが彼女の部屋に花を挿し続ける理由だった。

 あの時小さな窓の中に見た彼女の笑顔が、手を伸ばせば届く距離で、今俺だけに向けられている。

「セレニティ…」
 声が震える。情けない。これが、この国の先頭に立ち続けなければならない男の声だろうか。けれど、君は…
 鋼鉄の武装をした俺の心をいとも容易く丸裸にしてしまうんだ。
 椅子に座る彼女の前に再び膝立ちになると、キョトンとした顔でもう一度小さく呼び掛けられる。
守らなければ。欲に塗れた連中から彼女を護るには、俺の心は預けてはならない。奴らに母と同じように狙われてしまう。だから、駄目だ。これ以上は。
 そう、頭では分かっているのに。
 気づけば唇を重ねていた。
下から掬い上げるように触れた唇は、柔らかく甘く。
俺は
俺は……
「セレニティ」
「エンディミオン…?」
 そうやって名を呼ばれれば、こんなに胸を締めつけ、温かなもので満たされることを知ってしまった。

 触れたい。

 もっと、君の温かさを感じていたい。


 君が…欲しい。


「いいか?」
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