エンセレ政略結婚。
満月の夜
彼に何かできないか考えていた私は、誰にも知らせずに夜だけに咲く花を摘みに中庭に向かった。珍しい花を渡して、彼に少しでも喜んで欲しかったから。相変わらず、ろくな解決策も見つけられない自分が情けなかったけれど、それでも少しでもあなたの心を元気にしてあげられたらって、思ったの。
中庭に着いた時。突然後ろから誰かに口を塞がれて馬乗りになられた。月明かりに反射して光る、大柄の男が持っているナイフに慄く。刺される、そう思った時。視界がふっと明るくなり私を組み敷いていた男が吹っ飛ばされていた。
「貴様!誰の差し金だ、言えっ」
※※※
「言うものか」と、姿を見られて逃げられないと思ったのか。その男は俺たちの目の前で自害した。
「きゃああっ」
目を覆う彼女の元へ駆け寄る。
「すまない…すまない」
恐ろしい目に遭わせてしまった。俺のせいで。俺の妻になどなってしまったせいで。
首を振りながらも震えて俺にしがみつく細い体。あぁ……それでも、無事だった。
けれど俺は俺を許せない。きっと見られてしまったんだ。この庭園でセレニティの為に花を摘んでいたことを。多分、それで…やはり彼女は俺の最大なる弱点であることに闇渦巻く親族の誰かに気付かれた。
迂闊だった。
「どうしてこんな夜更けにこんな所に来てたんだ?」
「私……」
怒気が含まれる声にビクッと肩を揺らして言葉を続けられない彼女。駄目だ。これ以上怯えさせてどうする?けれど止まらない。だって死ぬ所だったんだ。母上や父上のように。大切な人をこれ以上失ったら、俺はもう正気でなどいられない。
「このバカ王妃!」
「ちょっなによ!」
「侍女も付けずにこんな暗い場所にひとりのこのこ出てくるやつがあるか!本当に頭の悪い女だな!」
「それは…あ、あなたこそ!なんでこんな所に一人でふらふらいたのよそれでも一国のあるじ?!」
「あのなぁ、俺がいなかったら死んでたぞ?!」
「貴方がいなくてもあたし一人で何とかなったわよ!」
「ふざけるな!!!」
「エ、エンディミ…
本気の怒号に彼女がたじろいでいる間。ひょいと横抱きにして、有無も言わさずその場から連れ出した。
「さ、さっきのあの人は…」
「あとで四天王に伝える。それより俺の部屋に」
「え?!」
「変な妄想するな。…怪我してる。いいから黙って俺に手当てされろ」
※※※
初めて入る彼の部屋。そう。私達は夫婦なのに別の部屋で過ごしてる。だからどうしたって胸の中が落ち着かない。あれだけ入るなって頑なに拒まれていたのに。彼はいともたやすく私を運び入れた。窓の近くに飾られた花を見てはっとなる。
それは……今朝変えられていた私の部屋にあるお花と…おんなじだったから。
「あ、あの…っ」
「ここに座って」
ふかふかの椅子にそっと下ろされて動悸は増すばかり。
ドキドキしてしまうと、この前の自分の告白と、キスまで思い出してしまいそうで。あんなに恐ろしい目にあった後なのに私は不謹慎なその心を振り払いたくてブンブン首を振った。
「どうした?痛むのか?」
私の足を見て眉をひそませると
「待ってろ。すぐ戻る」と一度部屋を出て行った。
ふっと力が抜ける。そうすると気付かなかった傷口が今になってじくじく痛んだ。
瞬間。さっきの襲われた情景が浮かんで頭を抑える。そして、震えそうになる肩を必死に両手で抱きしめていた。
早く戻ってきてエンディミオン
※※※
自室に戻ると、不安げに体を小さくしている彼女と目が合った。胸が痛む。自害したとはいえあの男、そして黒幕に激しい怒りが湧く。ジェダイトに「中庭に死体が転がってる。早急に調べ上げろ」と命じたから明日の朝までには詳らかになるだろう。おそらく、ベリル殿とフェルシックの仕業…なのだろう。
「傷口、見せろ」
「あ…はい」
寝衣をそろと上げられる。
いつもドレスの下に隠されている初めて見る彼女の肌。傷口を見なければ理性は脆くも崩れただろう。
「あの」
「かなり出血しているが、深くない。手当てすれば傷痕も残らないはずだ」
傷口を清潔な布で拭きとり、消毒し包帯を巻いていく。
「随分慣れてるのね?」
「こう見えて俺はわんぱくな王子だったからな。しょっちゅう怪我をして四天王やじいやにこうして手当てされたものだ。だから手順くらいは頭に入ってる」
「わんぱく?」
頭上でふっと笑う気配がした
「母上を卒倒させるくらいにはな」
「まあ!」
処置が終わり顔を上げれば楽しそうに笑うセレニティがいた。
笑顔。間近で初めて見たそれは、想像以上に……
「終わったぞ」
ふいと顔を背けて立ち上がる。
のぼせるな。これ以上立ち入るな。彼女にこんな穢れた血の俺が近付いては駄目だ。
「エンディミオン」
彼女の声に思考が止まる。いつものように貴方や様がついた呼び名ではなく初めてそう呼ばれて。思わずもう一度彼女を見てしまった。
「ありがとう。助けてくれて」
目尻に涙を溜めて、見たこともない微笑みで言われ。
抑えに抑えていた感情が、決壊して俺の体も心も全部を覆ってしまう感覚に抗うことが出来なくなっていた。
彼に何かできないか考えていた私は、誰にも知らせずに夜だけに咲く花を摘みに中庭に向かった。珍しい花を渡して、彼に少しでも喜んで欲しかったから。相変わらず、ろくな解決策も見つけられない自分が情けなかったけれど、それでも少しでもあなたの心を元気にしてあげられたらって、思ったの。
中庭に着いた時。突然後ろから誰かに口を塞がれて馬乗りになられた。月明かりに反射して光る、大柄の男が持っているナイフに慄く。刺される、そう思った時。視界がふっと明るくなり私を組み敷いていた男が吹っ飛ばされていた。
「貴様!誰の差し金だ、言えっ」
※※※
「言うものか」と、姿を見られて逃げられないと思ったのか。その男は俺たちの目の前で自害した。
「きゃああっ」
目を覆う彼女の元へ駆け寄る。
「すまない…すまない」
恐ろしい目に遭わせてしまった。俺のせいで。俺の妻になどなってしまったせいで。
首を振りながらも震えて俺にしがみつく細い体。あぁ……それでも、無事だった。
けれど俺は俺を許せない。きっと見られてしまったんだ。この庭園でセレニティの為に花を摘んでいたことを。多分、それで…やはり彼女は俺の最大なる弱点であることに闇渦巻く親族の誰かに気付かれた。
迂闊だった。
「どうしてこんな夜更けにこんな所に来てたんだ?」
「私……」
怒気が含まれる声にビクッと肩を揺らして言葉を続けられない彼女。駄目だ。これ以上怯えさせてどうする?けれど止まらない。だって死ぬ所だったんだ。母上や父上のように。大切な人をこれ以上失ったら、俺はもう正気でなどいられない。
「このバカ王妃!」
「ちょっなによ!」
「侍女も付けずにこんな暗い場所にひとりのこのこ出てくるやつがあるか!本当に頭の悪い女だな!」
「それは…あ、あなたこそ!なんでこんな所に一人でふらふらいたのよそれでも一国のあるじ?!」
「あのなぁ、俺がいなかったら死んでたぞ?!」
「貴方がいなくてもあたし一人で何とかなったわよ!」
「ふざけるな!!!」
「エ、エンディミ…
本気の怒号に彼女がたじろいでいる間。ひょいと横抱きにして、有無も言わさずその場から連れ出した。
「さ、さっきのあの人は…」
「あとで四天王に伝える。それより俺の部屋に」
「え?!」
「変な妄想するな。…怪我してる。いいから黙って俺に手当てされろ」
※※※
初めて入る彼の部屋。そう。私達は夫婦なのに別の部屋で過ごしてる。だからどうしたって胸の中が落ち着かない。あれだけ入るなって頑なに拒まれていたのに。彼はいともたやすく私を運び入れた。窓の近くに飾られた花を見てはっとなる。
それは……今朝変えられていた私の部屋にあるお花と…おんなじだったから。
「あ、あの…っ」
「ここに座って」
ふかふかの椅子にそっと下ろされて動悸は増すばかり。
ドキドキしてしまうと、この前の自分の告白と、キスまで思い出してしまいそうで。あんなに恐ろしい目にあった後なのに私は不謹慎なその心を振り払いたくてブンブン首を振った。
「どうした?痛むのか?」
私の足を見て眉をひそませると
「待ってろ。すぐ戻る」と一度部屋を出て行った。
ふっと力が抜ける。そうすると気付かなかった傷口が今になってじくじく痛んだ。
瞬間。さっきの襲われた情景が浮かんで頭を抑える。そして、震えそうになる肩を必死に両手で抱きしめていた。
早く戻ってきてエンディミオン
※※※
自室に戻ると、不安げに体を小さくしている彼女と目が合った。胸が痛む。自害したとはいえあの男、そして黒幕に激しい怒りが湧く。ジェダイトに「中庭に死体が転がってる。早急に調べ上げろ」と命じたから明日の朝までには詳らかになるだろう。おそらく、ベリル殿とフェルシックの仕業…なのだろう。
「傷口、見せろ」
「あ…はい」
寝衣をそろと上げられる。
いつもドレスの下に隠されている初めて見る彼女の肌。傷口を見なければ理性は脆くも崩れただろう。
「あの」
「かなり出血しているが、深くない。手当てすれば傷痕も残らないはずだ」
傷口を清潔な布で拭きとり、消毒し包帯を巻いていく。
「随分慣れてるのね?」
「こう見えて俺はわんぱくな王子だったからな。しょっちゅう怪我をして四天王やじいやにこうして手当てされたものだ。だから手順くらいは頭に入ってる」
「わんぱく?」
頭上でふっと笑う気配がした
「母上を卒倒させるくらいにはな」
「まあ!」
処置が終わり顔を上げれば楽しそうに笑うセレニティがいた。
笑顔。間近で初めて見たそれは、想像以上に……
「終わったぞ」
ふいと顔を背けて立ち上がる。
のぼせるな。これ以上立ち入るな。彼女にこんな穢れた血の俺が近付いては駄目だ。
「エンディミオン」
彼女の声に思考が止まる。いつものように貴方や様がついた呼び名ではなく初めてそう呼ばれて。思わずもう一度彼女を見てしまった。
「ありがとう。助けてくれて」
目尻に涙を溜めて、見たこともない微笑みで言われ。
抑えに抑えていた感情が、決壊して俺の体も心も全部を覆ってしまう感覚に抗うことが出来なくなっていた。