嫉妬シリーズ(前サイトからの移行作品集)

『いつだって』(親子 まもうさちび)

「それじゃあパパ、ママ!行ってきま~す!」

時空の扉を前にして、30世紀のクリスタルトーキョーのプリンセスは、見送りに来ていた両親に笑顔で手を振った。


プリンセスとしてのカリキュラムを誰もが納得する優秀な成績でこなす彼女は、教育係のマーキュリーに褒美として一ヶ月の長期休暇を許可された。

この国の王と女王である彼女の両親はそれを聞いて、自分達もと愛娘の為に内緒で公務を前倒しにして必死に働いたのだが…。そう簡単にはいかなかった。
大事な会議などは、誰かに代われるような仕事ではない為、どうしても調整がうまくはいかなかったのだ。

しかし長期休暇を前にして、娘が二人に言ったことは彼等が想像していたものとは少し、いや大分違った。

「うさぎたちに会いに行きたい!!いいよね?パパ、ママ?」

今の自分達ではなく、過去の自分達と共に過ごしたい。それがスモール・レディの願いだった。








扉の向こうに消えた我が子を、決して公の場では見せないような膨れた顔をしてネオクイーン・セレニティは見送っていた。


「もう…あんなに嬉しそうに行かなくてもいいじゃない。」


その言葉に隣にいたキング・エンディミオンは吹き出した。


「なんだ。二つ返事で過去へ行くことを特例で許したのは君じゃないか?」

娘の願いにまるで聖母のような微笑みを浮かべて承諾したときの妻と今の彼女のギャップに笑わずにはいられなかった。


「ええそうよ!あんなに修行も月の離宮のカリキュラムも頑張ったのよ?そんなあの子の一番の願いを叶えてあげるのは当然じゃない!」

「でも、ものすごく面白くなさそうな顔をしているよ?」

クスクス笑いながらキングが指摘する。


「それは…!」

「それは過去の自分にヤキモチを焼いているから?」

クイーンの心の内をそのまま読み取ってマスクの奥からいたずらっぽい眼差しを送った。

言い当てられて顔を真っ赤にする妻を、どんなに時を重ねても変わらずに可愛いと思ってしまう。

その想いを込めて彼女の肩を優しく撫でた。

「私達にとってはあの子が一番なのに…スモール・レディにとっての一番は違うのかと思ったら、何だか悲しくなっちゃったのよ。」

口を尖らせながら悔しそうに言うクイーンはやはり少女のようだ。

「過去は過去でも、自分には変わりないじゃないか。まあ、君の気持ちも分らなくはないけどね。」

キングも、パパよりまもちゃん!と思われたのかと考えると多少は寂しかった。


だがすぐにもう一度穏やかな微笑みを浮かべるとクイーンを見る。


「大丈夫だよ。スモール・レディは俺たちの娘だ。一ヶ月の間ずっと向こうに行ってる訳じゃない。
だから、あの子が帰ってくるまでに残った仕事を終わらせて、また笑顔で迎えてあげよう?」


「ええ…そうね…。」

キングの言葉にいくらか落ち着きを取り戻して溜め息混じりに言い返す。

「何?終わらせる自信ない?」

「あるわよ!もう、貴方ってそうゆう意地悪なとこ、全然変わらないのね!」

ふいと顔を背けて更に頬を膨らませた。

「君も、そういう顔、全然変わらない。国中の人が見たらビックリするだろうな。」

声を上げて楽しそうに笑うキングに、

貴方のその顔もあの頃とちっとも変わらないわ…

胸をトクリと震わせながらネオクイーン・セレニティは思った。


「心配しなくても…こんな顔、貴方にしか見せないから。」

恥ずかしそうに呟く妻に愛しさが湧いて腰を掴むと体を引き寄せる。

「ああ。俺以外には見せるな。」

――そんな可愛い表情を――

クイーンの耳元でそっと囁いた。



そこでようやく、クイーンはくすぐったそうな笑顔を浮かべると、

「娘を頼んだわよ…あの時の私。」

そう言って、キングと肩を寄せ合ってクリスタルパレスへ戻っていった。

※※※




「まもちゃん!おまたせ!」

十番高校のセーラー服をなびかせてお団子頭の元気な彼女はベンチに腰掛けて待っている恋人に大きく手を振る。

「俺も今来たところだよ。」

大学では見せないような笑顔を浮かべて衛は立ち上がった。

「だけど最近暑くなってきたよな?今度から待ち合わせ場所変えるか。」

「じゃあアイス食べよ♪」

「は?」

「ほらほら~!行こ!」

腕をぐいぐい引っ張って無邪気に言う彼女に苦笑する。

何でも食べ物で解決しようとするうさぎに、自分の話を聞いていたのかと思わないこともないけれど、結局そんな彼女のペースに流されてしまっているこの状態が嫌ではなかった。

俺も相当うさには甘いよな。

衛は心の中で呟いた。




「あたしにも分けてね!アイス♪♪」

ドンッと後ろからの衝撃と共に回された小さな腕と懐かしい声に二人は勢いよく振り返った。


そこには、自分達にその時が来るまではもう会えないだろうと思っていた少女が笑顔で見上げていたのだった。


「「ちびうさ!?」」


「久し振り!まもちゃん、うさぎ!!」











その後公園の近くにあるアイスクリーム屋に三人で入ると、以前と同じようにチョコとバニラとイチゴのトリプルを注文する。
まずはちびうさがイチゴをスプーンで山盛りに掬うと美味しそうに頬張った。


「ん~!ずっと食べたかった味だわ♪」


満足気にそう言うと、目の前の二人にどうしてこっちに来たのかを説明をする。

当然二人は喜んでくれるだろうと思ったのだが、

「そうか…。」

と衛はどことなく寂しげな微笑みを浮かべて呟き、うさぎに至っては表情を曇らせて黙り込んでしまった。


「え?何よ二人とも。あたしが来て嬉しくなかったの?」

予想外の反応にもやもやと心に霧がかかって胸がツンと痛み、笑顔がひきつる。


「そうじゃないよ。」

ポンポン、衛は少女の頭を優しく叩いて言う。

「キングとクイーンは…反対しなかったの?」

うさぎがようやく口を開いてちびうさを真正面から見る。

「全然!二人ともニコニコ笑顔で見送ってくれたよ?」

すると衛とうさぎは困ったように見つめ合った。


「もう何よ二人とも!そんなにあたしに会いたくなかったの!?」

瞳を潤ませてちびうさは叫んだ。

「「そんなことあるわけない」」だろ!?」でしょ!?」

うさぎと衛の反論の言葉に少女は目を見開く。




「会いたかったに決まってるじゃない!」

会いたかった

また喧嘩したかった

また川の字で寝たかった

また手を繋ぎたかった




憎まれ口の可愛い声が懐かしかった







うさぎは、次々とちびうさに対する思いが溢れ出してきて言葉にならなかった。衛はそんな彼女の背中を撫でてやっている。


「うさぎ…。」



涙をポタポタと溢しながらうさぎは弱々しく微笑む。

「でもね、ちびうさ。あんたは30世紀に帰ったほうがいいよ…。」

「ど…して?」

ちびうさの頬にも涙が伝っていた。

「ちびうさが俺達に会いたくて来てくれたのは本当に嬉しいよ?
だけどキングとクイーンは、その休暇をお前と一緒に過ごしたいって、きっと誰よりも思っていたんじゃないかな。」


「まもちゃん…。」


ちびうさは両親の笑顔を思い出す。そこには全く憂いなんて感じなかったけれど、過去の両親である二人が言うならそうなのかもしれないとも思う。


「何でかな…やっぱり未来は未来でも、私だから分かっちゃうんだよね。クイーンの気持ちが。」


うさぎはポツリと独り言のように呟いて涙を拭う。そして紛らわすかのようにアイスを口に運んだ。

「おいし…。」

泣いた頭がキーンと冷えて心地よかった。


「うん…。パパとママの気持ちは…分かったよ。でもね、もうこれが本当に最後かもしれなかったから…だからどうしてもうさぎたちに会いたかったの。」

「うん」

とても優しい目で衛に頭を撫でられて、じわっと涙が溢れそうになる。しかしそれをぐっと堪えてちびうさは二人に笑顔を向けた。


「ちゃんと明日は帰るから、だから今日は三人でいつも通り楽しく過ごしたい!いいでしょ?」


ちびうさの申し出に二人は胸がきゅっと締め付けられて、それでも嬉しくないはずがない彼女の願いにようやくまっさらな笑顔で頷いた。





楽しい一日はそれこそ飛ぶように早く過ぎていった。


『最後かもしれなかったから』

ちびうさの言葉はなるべく考えないようにして――――








「ねえちびうさ。」

あっという間に夜は更けて、ちびうさを挟んでベッドで川の字になって寝転んでいると、不意にうさぎが呼び掛ける。

「なあに?」

うさぎの方を向けば、生まれた時から知っている空色の瞳が、自分を優しく見つめていた。


「覚えておいてね。私たちは、いつでも…あんたのことが大好きだから。」

「うさぎ…。」

こんなに素直に彼女の気持ちを聞いたのは初めてで、

ああこれが最後だからなんだ…

心の隅でそう思って泣きそうになりながらも、ちびうさの胸には嬉しさが込み上げていた。



「俺達に会いに来てくれてありがとう。」


「まもちゃん…」

衛の瞳も潤んでいるのが見えて、ちびうさは堪えきれずに涙を流した。


「もう!いつも通り楽しくって…約束したのにぃ…っ!」


うさぎはそんな少女を優しく抱き締めて、衛は二人を包み込むように腕を回した。



あったかい…


まもちゃん


うさぎ



ありがとう…






二人に包まれながら、この世で一番安心する心音を聴いていると、いつしか穏やかな寝息を立てて夢の世界へと旅立っていった。

※※※





「パパー!ママー!!」

公務の為に会議をしていた両親が丁度会議室から出てきたのが見えてスモール・レディは勢いよく走っていく。


まさかこんなに早く戻ってくるとは思わなかったキングとクイーンは驚いて立ちすくんでいた。


「ただいま!!」

二人の娘は勢いよく抱きついてきて笑顔を向ける。

「おかえりスモール・レディ。こんなに早く帰ってきて良かったのか?」

キングは愛娘の目の高さまで腰を下ろして優しく訊ねた。

「久し振りだったんでしょう?本当に良かったの?」

クイーンもかがんで娘の頭を撫でた。


二人のその姿が過去の二人の最初にどこか遠慮していた態度と重なって、いつだって父と母は父と母なのだという当たり前だけどとても温かい事実が胸にストンと納まった。

スモール・レディは両親の手を握ると眩しい笑顔を浮かべる。



「あたしね、いつだって、パパとママが大好きだよ!!」

「スモール・レディ…」

「パパとママの間に生まれてきて本当に良かった。ありがとう!!」







その言葉にクイーンは瞳にうっすらと涙を浮かべた。
キングは娘を抱き上げて頬にキスを贈りながら、今後一ヶ月の仕事は全てキャンセルしよう。残っている仕事は急を要さないし、会議は長年のよしみで今回ばかりは延期してもらおう。

そんな一国の王としては少々責任に欠けるような計画を笑顔の奥で決心していた。


それほど少女の言葉は親として嬉しいものだったから。


そして三人は手を繋ぐと、まだ何も決めてはいなかったけれど家族水入らずで過ごす休暇に心を弾ませて一歩一歩と進んでいった。


おわり(初出2013年)
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